経費削減の罠と経営者の役割

思い起こせば、丸紅香港有限公司に経理課長代理として赴任したのは1997年の事。
2006年にコンサルティング子会社を作ってもらい、そこの社長になるまでの9年間、経理担当(最後は経理部長)として4人の現法社長に仕えたが、社長就任時に、必ず組織改革のアクションプランをやらされる。どの社長も、こんなことやったのは俺だけだろうというのだが、その実、「毎回この繰り返しだよ」という感じであった。そこで実感したのが、経費削減の罠。
利益を出す組織にするためにはどうしたらよいかを考えると、一番安易な発想は経費削減である。経理担当者の習性として、最初・二番目の社長就任時は、当然の様に、僕もそれを提案した。
ただ、その後の推移を見ると、経費を減らせば(人員削減、拠点閉鎖、不採算事業撤退)、営業収入も落ち、結局、純利益は同水準を推移しているのに気が付いた。これでは意味がない。
その為、3人目の社長(その後、本社の社長になった國分社長)には、「経費削減はさておき、前向きなプランを立てましょう」と提案したものだ。
これは勿論、巨大企業の本社組織というのは、利益は本社集中で、現地法人の部門をコストセンター的に位置付ける傾向が有るというのも大きな要因だ(これが移転価格税制が生まれたそもそもの原因)。ただ、こうした特殊事情を除外しても、精神面の影響は無視できない。
経費を削ればその分利益が出ると考え、それにはまり込む。徐々に発想が消極的になり、縮小を繰り返し、希望が持てない組織になる。そして最後には、組織が行き詰まる。
そんな傾向が有るのは事実。経費削減は、ある意味甘い罠だ。
減らせる部分は減らすも、注力するところには資金を投下し、組織の存続と拡大図が描けるよう、経営者は、何時も心がけないといけない。

僕は、小ぶりな会社を立ち上げて、経営者をしているが、最近つくづく思う事が有る。それは、会社が成長するか消滅するかは、経営者のモチベーションが大きく影響するという事だ。経営者が、組織を成長させる意気込みを持っている時は、組織はまだ生きてゆく。成長をあきらめた時に組織は消える。
部下、組織が育っても、象徴的存在としての経営者の役割は、やはり大きいものだ。
起業11年が経過し、組織も8拠点になると、現状維持で良いのではないか、縮小しても良いのではないか、というささやきが聞こえるときが有る。現状維持は縮小を意味し、そして消滅に繋がる。拡大させるつもりで努力して、初めて現状維持だ。
では、時代を読んで成長し、生き残ろう。その意気込みが持てることが、経営者の一番の資質ではないかと思う。弱気になりがちな気持ちを、僕自身も打ち消しながら生きている。