2020年8月18日のThe Daily NNAに、「人民元国際決済20兆元に迫る。国際化を安定推進(人民銀)」という記事が出ていた。
2019 年に中国の銀行が取り扱った人民元のクロスボーダー決済は19 兆6,700 億元(約302兆800 億円)で、過去最高額となったということだ。内訳は、経常項目が6兆400 億元、資本項目が13 兆6,200 億元という事で、資本項目が大きく上回り、その主要因は、証券投資(9兆5,100 億元)となっている。
クロスボーダー人民元決済のテスト措置が開始されたのは2009年で、最初はかなり限定的な内容であった。この規制緩和が急速に進み、2012年には規制緩和完了し、中国と全世界間の国際決済が可能となった。つまり、以前は対外決済が認められなかった人民元が、対外決済通貨になったのは2012年で、その時の決済額は(4兆元)。それと比べると5倍弱に増えたことになる。また、現在の国際通貨基金(IMF)による外貨準備の通貨構成統計では、人民元が世界5位の準備通貨となっている(米ドル、ユーロ、円、ポンド、人民元)。
という事で、平常時であれば、順調な成長はめでたい、という解説になるが、米中関係が緊張している状況だと、それでは終わらなくなってくる。
中国にとっては当然の事ながら、おそらく世界中の国際取引をしている企業とって、最悪のシナリオは、米国が、中国や香港の銀行に対して、米ドルの使用制限をかけてくることだろう。
この点は、5月31日のブログに書いたのだが、世界の二分化につながる最悪のシナリオだ。
勿論、これをやれば、世界に甚大な影響を及ぼす。中国企業だけではない。米国企業にとっても、彼らの中国からの製品購入、中国の現地法人からの利益や資産の回収などに著しい支障が生じ、また、世界のサプライチェーンはずたずたになる。
8月19日のブログで、米国における、香港原産品の中国産表示義務付けというというのは、効果に乏しい、単なる強気姿勢のポーズだと書いたが、それとは全く次元が違う。
あまり、国際貿易に接していない方には、イメージがわかないようだが、今の国際経済は密接に関連しており、一つの製品を作るには、多くの国が関与している。国際社会が二分化した場合、今のサプライチェーンを再構築しようとすると、気が遠くなるような、資金、コスト、労力、時間が必要となるし、物資の安定供給も、一時期途絶えかねない。
日本とても、当然例外ではなく、深刻な供給不足に襲われかねない(物資が手に入らない状況が、かつて経験した事もないほど深刻になろう)。
この様な問題の深刻さから、最悪の事態が生じる可能性は、極めて低いとは思うが(さすがに、米国も、そこまではやれまい)、中国としては、可能性が有るのであれば、それを織り込み、対応策を進める必要がある。
人民元対外決済量の増加も、その対応のための準備的な位置付けが有るのかもしれない。
ただ、中国が米ドルへのアクセスを制限される様な事になれば、人民元の国際化を、もっとドラスティックに推進する必要が出てくる。そこで必要となるのは、人民元の自由兌換だ。人民元が、世界TOP5通貨に入ったとは言っても、現時点では、米ドルとは圧倒的な差が有る。この差を詰めていくためには、自由兌換の推進が必要だ。
中国の外貨管理制度は、過去数十年で、大きく自由化が進んでいるが、それでも、為替は管理された状況にあり、外貨管理手法は、欧米諸国とは異なっている。
それは、「実体のある取引(貨物であれ、サービスであれ、投資であれ)に伴う外貨決済のみを認め、決済・兌換に際して、検証ステップ(真実確認ステップ)を守る」という姿勢である。
これを維持する限りにおいては、国際的な影響力は拡大できない。一方、自由兌換に踏み切れば、資本の流出などの懸念が有る。極めて判断が難しい問題であるが、どう舵を取っていくのだろうか。