久々のビジネスランチ

とある会計事務所にビジネスランチにご招待頂いた。元々3月に同事務所主催の講演会に招かれる事になっていたのだが、この状況で延期。ではどうしようか。オンラインセミナー、その他の方法で対応しようか、という点の打ち合わせ。

場所は、六本木の中国飯店。初めて行く店だが、そもそも六本木は詳しくない。新入社員の頃に、同期は六本木に行きたがったが、当時、志木寮に住んでいたので、(バブルの前兆でタクシーが捉まらない状況下)六本木で飲むのは非常に嫌だった。そういう印象が残っているのだろう。

食事はコースメニューでこんな感じ。上品な中にも刺激を感じる味付けで、なかなか美味しい。
元々、延期になった講演会では、香港に付いて語る筈だったが、その後、米中摩擦による香港執行法規制の動き、海南島自由貿易港の話などが加わり、今の方が、もっと面白い話ができそうだ。

このご時世なので、一人一人個別に取り分けてくれるのが有難い。適度な量で、美味しくデザートまで食べられた。

その後、せっかくの機会なので、外苑前まで歩く。青山霊園は初めてで、大きさに驚いた。ひたすら歩くと伊藤忠にぶつかる。こういうロケーションかとちょっと驚く。

昔のブログを読み返し、今の日常を振り返る

3月27日から、ずっと横浜の実家にこもり、移動無し・講演無し・外食無しの生活だったので、特段撮るべき写真もなく、結果、硬い話題が続いてしまった。かつては、部下から「水野さんのブログはグルメブログになってますね」と言われてきたのが大違いだ。ただ、徐々に動けるようになってきたので、バランスよく続けていこう。
因みに、昨日の海南自由貿易港の記事をアップした時にリンクした2008年の海南島家族旅行の記事から、その前後の記事を読み直してしまった。その時、思い悩んでいたのは、まさに、丸紅を辞めるべきかどうか(というより、辞められるのかどうか)という事で、悩みに悩んで憔悴していた状況での海南島。そこでメンタルを若干回復させられたおかげで、「部下とクライアント様を守らなくては(コンサルティングを続けなくては。そのためには丸紅を辞めなくては)」という決心をつけられた。2008年の記事を読み直すと、当時の気持ちがよみがえってくる。これはブログの効用だ。しかし、昔のアップを読むと、書く文章が、今とはずいぶん違っている。12年前は、ブログの文章も若かった、というか、やんちゃだったなと思う。

それはさておき、ここ暫くの変化のない日常で、無理やりアップする写真を探しているが、取りあえず、先週の昼食で生ラーメンを茹でたもの。卵の茹で方が理想的だったが、毎日、同じような昼食を作って食べていると、こういう事(卵の茹で加減とか)は上手くなる。良いやら悪いやら。

これは、急に牛丼が食べたくなって、作ってみた結果失敗したもの(塩味強すぎ)。

平常に戻ったら、こういう写真はアップしないであろう。

海南自由貿易港は興味深い

海南島自由貿易港建設総体方案(全体計画)が、2020年6月1日に公布され、日本のTVを含め、各種のメディアで取り上げられている。
総体方案を読んでみたが、これは、久々に大掛かりな優遇措置が織り込まれており、今後、海南島をめぐる環境、特に、香港、ASEAN関係が、大きく変わるかもしれない。

因みに、全国18か所に設置された自由貿易試験区(第1号は、2013年の上海)に付いては、僕自身はあまり魅力を感じていないと前から言ってきた。理由は、「優遇税制がない」、「投資管理自由化措置の試験地域という位置付けだが、ここで導入した後、すぐに全国適用するので、それが却って、この地域に投資する魅力を削いでいる」、「保税区域と誤解している方が多いが、そうではない(保税区域はそのうちのごく一部)。保税政策は、従来の政策とほぼ同じ」というものだ。

一方、海南自由貿易港は、以下の様な優遇政策が打ち出されている。2008年の企業所得税法改定より、特定の地域である事を理由とした優遇措置は原則禁止されてきたので、久々の優遇措置。更に、税関管理、企業所得税・個人所得税、外貨管理にまたがる点は、かなり大掛かりと言える。
海南自由貿易港の優遇
1.税制
奨励分類企業の企業所得税率を15%に軽減し、優遇人材の個人所得税を最高15%(3%、10%、15%の三段階課税)とする。
優遇人材の15%税率は、広東省のグレーターベーエリア対象地域でも2019年度より開始されたが、海南島でも実施される。

2.全島保税地域化
このインパクトが大きい。
全島を保税地域(封鎖管理対象税関監督管理地域)にして、貨物貿易に関しては関税ゼロ政策を適用しようというものであり、対象貨物の税関手続も緩和される予定である。海南島の面積は、3.3万㎢であり、九州より若干小さい程度だが、その全てが保税区域になって、加工貿易、保税保管、スウィッチ貿易等の拠点として活用できるのはインパクトが大きい。
島内の企業が輸入する原材料、設備機械の輸入は輸入段階課税免除される。輸入原材料を使用して加工した製品を、他地域(島外の中国)に販売すれば、その段階で関税・増値税が徴収されるが、輸入原材料を使用した製品でも、奨励分類生産型企業が製造したものであり、島内で30%以上の付加価値がつく場合は、関税免除措置が受けられると規定している(増値税・消費税は税法に基づき課税)。

3.その他
外貨管理の自由化は、色々と謳われているが、外資企業にとって即効性がある規制緩和は、外債(対外借入)の総量枠撤廃程度か。
それ以外に付いては、国際状況をにらみながらの対応であろう。米国との摩擦や、香港の状況次第によっては、まずは、この地域で、一気に為替管理を自由化する可能性もあり得る。
趣旨はこちらを参照下さい 
あとは、IT、現代サービス業の誘致が目的とされているので、規制緩和は有り得る(特に、規制の強いIT業でどういう規制緩和が実施されるか興味深い)。
また、2011年から実施されている、島内免税販売(国内旅行者に対する商品免税販売)も、一人当たりの免税額を年間累計10万元に引き上げる。

上記は主要な内容の例だが、全体的に、ここ暫く見られなかったほどの措置(特定地域に大きな優遇を与える事の不公平を、過去10年以上嫌ってきたため)が織り込まれている。

僕が、最初に海南島出張したのは1998年の海口で、その時の僕の印象は、兵どもが夢のあと、というもの。それが理由で、海南島に興味を持たなかったが、2008年に三亜に旅行した時、想像以上の発展に驚いた(10年前の海口とは大違い)。その時の感想を、ブログに以下の様に書いている。まあ、旅行の感想だが。

海南島、ばかにしていて悪かった(その1)

海南島、ばかにしていて悪かった(その2)

それから更に10年が経過し、2018年に海南島が自由貿易試験区として認可された。その時は、さほど興味はもたなかったが(理由は上記の通り)、今回は違って注目している。

香港にとって代わる存在とする政策という推測が多く、サウスチャイナモーニングポストなども、それを意識した論調の記事を書いている(まだ香港の比ではないというニュアンスの記事)。
想定の一つではあるだろうが、香港代替にするのであれば、金融・ITが大きく発展し、GDP規模で香港を既に抜かした深圳に設置する方が手っ取り早い気がする。
海南島は、立地的に見ても、ASEANとの結びつきの深化、(島として隔離されている事のメリットを生かして)外貨管理の大きな緩和の実施などの施策が取りやすい。この様な意味では、香港のようで香港ではない位置付けとして伸ばしていくのではないか。

世界的に企業経営コストが上昇している

2000年代早々、つまり、僕がコンサルティングを始めた時は、中国進出ラッシュの真っ盛りであった。その時の議論は、リスクを冒して海外に出るべきかどうか、であり、「海外に出る=チャンスとリスク」、「日本だけに留まる=安定」という発想だった。
それが、2011年の日本の大震災でサプライチェーンが乱れ、海外に出ない事もリスクである(天災などで、供給ができなくなるリスクがある)という事実を突きつけられた。
そして、2012年の中国での反日運動で、中国プラスワンが叫ばれ始めた。
その後、タイの軍事クーデター、バングラの日本人殺害、インドネシア・マレーシアのテロなどが有り、中国プラスαという話になってきた。つまり、ASEANも不確実性が大きいので、複数個所を構えてリスク分散が必要という趣旨だ。
そして、追い打ちをかける様に、2018年からの米中貿易摩擦が激化し、企業は製造・販売モデルの再構築の検討が必要となっている。この様に、世の中は、ここ10年程度で、どんどん企業に経営コストの増加を強いるようになっている。

米国に売りにくいのであれば、中国を離れてASEANに移転すればいいという話をする方もいるが、これは、経済を知らない発言だ。
日本の貿易相手国(財務省貿易統計)は、2019年:中国1位(21.3%)・米国2位(15.4%)、2018年:中国1位(21.4%)・米国2位(14.9%)と、3位以下を大きく引き離しており、とても無視できる状況ではない(輸出の場合は、2019年の1位は米国、2018年の1位は中国)。
それに連動する話でもあるが、IT(電子部材・半導体)に付いては、中国を中心にした大きなサプライチェーンが構築されており、全世界における中国の生産割合は、スマホ65%、複写機75%、ノートPC・タブレット86%と圧倒的な占有率。サプライチェーンを徐々にシフトしていく事は有り得るが、数百・数千の部品の生産・供給網をシフトするのは、長い時間と巨大なコストを必要とする。
市場としての位置付けでは、中国の個人消費は世界の10%を占めており、まだまだ上がるだろうから、米国の市場を無視できないように、中国の市場も無視できない。
つまり、米国と中国で断絶が起きれば、米国向け販売の製造拠点と、中国向け販売の製造拠点で、個別の体制とする必要が生じ、拠点の構築・維持コストの増大から、企業経営が圧迫される。それが、いまの世界で起きている事だ。

また、僕個人にとっての厳しい点もある。僕の仕事は、他の専門家と同様、他人より知っている事・ノウハウがある事が大前提となる。
中国は、面積・人口が巨大であるし、日本企業の進出は成熟している。上海、広州など数か所に拠点を構えれば、数百社のクライアントの方にサービスが提供できるので、効率的だ。ただ、ASEANは、パイが小さいうえに、国が変われば言語も、法律も、習慣も違う。
僕やいまの部下がそのままASEANで対応する訳にはいかず、多国展開をすれば、各国に、オフィスを借り、一定水準を満たす人材を雇用する必要が生じる。
結果、利ザヤが極めて低くなり、利益を出すのも一苦労で、店舗展開すればするほど苦しくなるのは自明の理。ベトナム(2016年営業開始・2018年黒字化)の次のASEAN拠点ができないのは、こうした理由だ。
その為、次のターゲットを米国に定めたのだが、これは、コンサルティングというよりは、情報収集・情報交換という位置付けとなる。

それはともあれ、自分の身に置き換えてみるだけで、日本企業のみならず、いまの企業が置かれている厳しい環境がよく分かるであろう。
生きにくい世の中になってきているが、ともあれ、変化に対応できる企業のみが生き残れるわけなので、頭を絞らなければならない。今回の新型肺炎の実家ごもりは辛かったが、それなりに、色々と考える事ができたのは収穫だった。そう、後で言えるように、頑張ろう。

早く中国に行けないものか

面談依頼、ご相談が徐々に増えてきた。少し明るい気分になってくる。
面談時には、どなたも「早く中国に戻りたいので、新しい情報があったら是非下さい」というご要望を頂く。中国に戻りたいのは僕も同じで、重点調査せねばならないところ。

現在、日本の中国ビザ申請センターは、日本の新型肺炎が収束していない事を理由として、受付を依然として停止しているが、「経済貿易・科学技術活動に従事していて緊急需要の有る場合や、人道的な理由で、緊急申請をしなければならない場合など」は、特例としてEmail での申請を認めている。
これに関して、広東省外事弁公室が、この特例による入国(インビテーションレター方式)に関する、レターの取得方法とフローチャートを公開した。招聘状取得申請フロー
これに関して、広東省の関連部門に、当社広州からヒアリングした結果は、以下の通り。

1.発給されるビザ
広東省外事弁公室の回答では、「外国籍の経済貿易・科学技術系ビジネスマン」が対象(日本のビザ申請センターの記載と同様)となるのでMビザとなる。ビザ期間やその他の条件は、在日本中国大使館・ビザ申請センターの最終判断によるが、原則として、90日の一次ビザになるとの由。広東省にレターを出してもらった上で、他地域(上海など)に行く事はできるか、という質問に対しては、「申請書に入国地、出張先を明記して、疫病予防指揮センターが審査して同意すれば、他地域に行ける」との回答だが、これは不透明な部分が多い。

2.難易度
広州市外事弁公室、天河区商務局の回答では、市・区の重点企業が申請できるという事で、この難易度は結構高そうであるし、関係部署が多いので、招聘状取得には、1.5~2ヶ月程度かかる模様。また、この方法で入国しても、14日間の隔離は必要となる。

という状況を踏まえ、僕自身、「さて、どうするか」と考えたが、やはり、もう少し状況を見た方が良いかという結論。
僕の会社の納税額は、大企業と比較すると微々たるものなので、重点企業に指定されるのはまず無理だろう。
となると、僕は、広州市政府(投資促進局)のシンクタンクメンバーになっているので(7年間ほど連続)、ここに推薦してもらえないかがポイントになる。
一応、投資促進局に聞いてみたら、入国の必要性に関する説明書を作成すれば、推薦してはくれるという事だが、関係部署が多いため、投資促進局の一存だけでは決められず、推薦を受けたからと言って、招聘状が取得できるかどうかは分からない。
シンクタンクメンバー(専門家)で招聘状を取得した事例は無いようだが、そもそも外国人の専門家は僕を含めて2名しかいないので、前例がないのは当たり前だ。まあ、やってみなければ分からない、という事になる。

3.ファスト・トラック制度
中国では、5月1日よりファスト・トラック制度が開始され、72時間以内に指定医療機関でPCR検査を受け、陰性となれば、14日間隔離不要で入国できる。
韓国は、既にこの適用を受けているし、6月8日からはシンガポールも適用対象となるようだ。日本にも中国からの打診はあるようだが、PCR検査をオンタイムに対応できないという日本側の事情で、まだ対応ができていない。
ただ、日本の経済界からは、かなり要望が出ているだろうから、しかるべきタイミングで実現するのではないか。
招聘状方式だと、「招聘状が取れるかどうかわからない。2ヶ月程度の期間がかかる。行き先が制限される。その方式で入国しても14日隔離は避けられない」という状況。
おそらく、ファスト・トラック制度の合意を待っていた方が、早いのでは、という様な気持ちで、当座は待ちの状況か。新型肺炎が収束してしまえば、これに越したことはないのだが。

久々の横浜オフィス

横浜オフィスで面談を2件。ここに入って、ご面談依頼がぐっと増えてきた。明るい気分になってくる。桜木町駅に着くと、人が結構出ている。マスクをしている事を除けば、新型肺炎前の7~8割に戻って来ているか。街が動き出してきたなという感じがする。

一時は全店休業だったランドマーク内の店も復活した。

仕事が終わり、桜木町駅で1時間だけ杉山君とキリンシティに入る。思えば、2.5ヶ月ぶりの外食だ。以前は、特段どうでも良かったことが、待望期間を経ると、嬉しくなる。当たり前の事に対する感謝と喜びを感じた1日であった。

米中摩擦の新しい展開か

2020年6月1日の日経新聞、Daily NNA その他で、「米ブルームバーグ通信は1日、中国政府が米国からの農産品の輸入を一時停止するよう国有企業に指示したと報じた」という報道が有った。
これを見て思ったのは、「中国側が、はじめて攻めに転じたか」という感想である。いままで、米国が制裁を科し、中国がそれに対抗するという、攻撃は米国、守りは中国という形できたのが(報復関税合戦も、一貫してその図式)、初めて、中国が先手を打った感がある。
おそらく、米大統領の弱り目を目にして、今攻めれば勝てるという判断で、ピンポイントで、票田の農産物を突いてきた(報道を信じるならばであるが)。そして、まずは、国営企業に限定して、米中双方の逃げ道(であり、次の攻め手)を残してきた。

ことの是非は、外交問題だけに、とやかく言うつもりも、それに足る情報も持ち合わせていないが、「将棋の指し手のようだな」というのが、不謹慎ながら、その感想。
そして、もう一つ言えるのは、中国側としては、おそらく、それにあたり、十分な情報が有っての判断であり、米国大統領選の結果も見据えて勝てる、若しくは、合意ができる(最悪の状況は防げる)という判断だろうが、万一、最悪決裂して、世界二分も辞さない姿勢の表れならば困るな、という事である。
こうなると、もう、両者の差し手を見守るしかなくなってくる。

暴力的な行為には賛同したくない

米国でのデモが広がり、過激化し、そして警察・軍隊が出て、お互いに暴力的になっていく。香港で起きている事と同じだ。
勿論、米国では、長年にわたって、差別、暴力が続き、それに対する怒りと不満の蓄積である点は理解できるし、真摯に受け止めざるをえない。ただ、この点は、専門外なので意見は差し控えるし、そうせざるを得ない点(知見が不足する点)は申し訳なく思う。

ただ、一般論として言うと、暴力は連鎖的な憎悪に繋がり、断裂を生む。断裂は、(自分たちが設定した)敵対勢力に対する暴力を肯定する。
結局、破滅しか待っていない。
香港で生じた暴力的デモには賛同しかねると言い続けてきたのはそういう理由で、香港の経済価値、というより、未来を破壊していくからだ。
メディアも色々な論調はあるが、米国のデモと香港のデモのダブルスタンダード(こちらは良いが、こちらは駄目という使い分け)は、あるべきではない。事の是非に基づいて論じるべきだ。

香港は、確かに、最初は警察側の問題だが(この点は、米国も同じ)、それに対する怒りが暴力の肯定になる。例えば、マキシムオーナーの子弟がデモを否定的に語ったという理由だけで、そのグループに対する破壊を肯定し、提携先の吉野家や元気寿司に石を投げて破壊するのを肯定するならば(さすがに、日本人としては、これらの店舗が破壊される状況には憤りを感じた)、かつての、魔女狩り、戦争、文革と同じになってしまう。

自分の目的ありきで暴力が肯定されるべきでは無い筈。いま一度、事の是非を考えるべきであり、そうしないと、ひたすら、破滅の道へ歩んでしまう。いまの香港に対する危機感は、そういう部分にある。
僕自身の事では有るが、1985年に香港を旅行し、ここで仕事をしたいと思ったから今がある。その気持ちが、この1年間の香港の動き(警察であれ、市民であれ)に、大きな失望と憤りを感じさせる。
香港の未来のために、暴力的な行為は賛成できない。

米中対立と通貨

2020年5月29日付の日経新聞電子版に、「米中対立で市場に異変 マネー分断、もろ刃の剣」というタイトルの記事が出ていた。
米中対立、香港に対する優遇廃止が金融に及ぶリスクについてのものだが、これが一番世界に混乱を及ぼすシナリオだろう。

5月27日のブログでも書いたが、中国にとって、香港の資金調達(IPO)機能は重要であり、これは維持する筈。今後、対立が激化すると、米国は、米国証券市場での中国企業の上場を阻害する可能性が出てくる。そうすれば、香港の重要性はさらに増す。
その意味では、物流、観光、不動産、貿易など、ネガティブな見通しが殆どの香港で、これは数少ないポジティブな分野。
ただ、更に、米国が対抗措置を進め、米国企業の香港での金融活動を制限する、更に、中国・香港に対して、基軸通貨である米ドルの取り扱いを制限するなどの措置を取ると、これは極めて深刻な問題となる。中国・香港は当然大きなダメージを受けるが、大きな投資先を失う米国も深刻なダメージは避けられまい。

中国としては、対抗策として、人民元の国際化を断行せねばならぬが、これは、為替の自由化が前提となる。2009年にクロスボーダー人民元決済(人民元の対外決済通貨転換)が開始され、2012年に経常項目に関する規制緩和が実現。国際決済通貨としての取扱量は、全通貨中トップ10に入っているが、それでも、為替の自由化を認めたわけではなく、制限された中での開放であり、国際通貨とは言えない状況にある。
為替の自由化は、計画経済にはマッチしないので、中国はこれを認めないだろう(通貨管理を行ったままでの経済発展を志向するだろう)と僕はずっと言ってきた。ただ、米国からの米ドル取扱い制限を受ければ、中国としても人民元の国際通貨化を早急に実現せねばならず、為替の自由化を否応なく進めざるを得ない。
1~2年以内に、中国の外貨管理政策の大きな転換があるかについて、状況を注視する必要があろう。

ともあれ、通貨の分断が進めば、世界の二極化は加速する。そして、世界的な経済の混乱と、致命的な落ち込みは避けられない。
昨今の米国の行動は、常軌を逸する面があり、昨年12月に、米中貿易戦争を、ぎりぎりで回避した理性が期待できるか不安に思う面もある。この点、世界経済の中の日本としても不安は募る訳で、決裂とはならぬ幕引きを望むばかりである。

米国の対香港優遇撤廃について考える

「米大統領が、香港に対する優遇措置を撤廃するよう政権に指示した。香港の統制強化に向けた中国政府に対抗」という事で、以下の様な報道がされている。昨年も同様の報道が有ったが(米国の香港政策法に基づく動きであるのは分かるが)、いまひとつ、不可解な気持ちを持っていた。

毎日新聞読売新聞とも、制裁措置として、「関税とビザの優遇撤廃」と記載しているが、まず、関税に関していえば、中国原産品を香港インボイススウィッチして米国に輸出したからと言って、原産地が変わる訳ではなく(あくまでも、関税は原産品証明に記載された生産国が課税の原則となる)、香港に対する関税優遇措置がなくなったからと言って、特段の変化はないはずだ。

一応、昨年1月に日経新聞が報道した、米国のファーストセールス制度というものはある。見出しは、「貿易戦争、香港が抜け道 節税目的で企業の利用増」というものであったが、実際には、それほど影響があるものとは思えない。これは、中国から米国に輸出するに際して、香港企業がオフショアで関係した場合、米国での手続を前提として、香港企業の販売価格(インボイススウィッチ価格)ではなく、中国企業の輸出価格を米国での通関価格にできるという制度。よって、香港で付いた付加価値に相当する関税の引き下げ効果はあるが、香港スウィッチで付けられる付加価値は、せいぜい1~2割だろう(半値=原価割れで中国から輸出して、香港企業が正価のインボイスを付けるようなことをすれば、中国での輸出通関時に問題が生じる)。それに対する関税率(香港の付加価値x関税率)分のメリットだから、決定的な裏技(封じられて大きな影響が出る問題)とは思えない。当然、原産地は中国のままだから、報復関税の対象だ(まあ、報復関税が乗るのであれば、メリットは通常より大きくなるが)。

実際、今回話題になっている香港優遇撤廃で影響を受けるのは、香港原産品であるが、面積の狭い香港では製造業は限定的で、香港のGDPの1.1%を占めるに過ぎないし(香港統計年鑑2017年)、更に、これで困るのは、香港の企業であって、中国本土が影響を受ける訳ではない。また、ビザもしかりで、米国訪問時のビザ発給が制限されるのが香港市民だとすると、これまた困るのは香港市民だけで、中国本土としては痛くもかゆくもないという気がする。
米国は、香港の民権を守るという大義名分を掲げているが、単に、香港の首を絞める手助けをしている様な印象がある。

一応、日経新聞は、もう少し踏み込んでいて、軍事使用可能な半導体を、米国から香港に輸出し(香港企業の輸入にする)、それが中国に転売される場合の制限の可能性を記載しており、そうした事があれば、影響はあるのであろうが、軍事関係物品の輸出管理は、そんなに甘いのであろうか(すぐに転売できてしまう様な管理なのだろうか)。ここは、実態を調べてみねばならない。

ともあれ、米国側が選挙を前に強い姿勢を見せたい気持ちの表れという気がするが、これが激化すれば、世界的な混乱を招く懸念がある。
2018~2019年の米中報復関税合戦は、2019年12月に一次合意が実現し、スマホ・ノートパソコンなどに対する報復関税を見送り、一旦、15%をかけた、スマートウオッチ、デジタル家電、アパレルに対する報復関税を7.5%に引き下げた。
これらは、消費者の生活に密接する物品で、また、世界における中国での生産シェアは、スマホ65%、ノートパソコン・タブレット86%を占めているため、中国以外の国からの代替輸入は難しい。これに報復関税をかければ、米国の小売価格に影響なしとはいえないので(支持者獲得に悪影響があるので)、やりたくなかったというのが本音ではないか。
結局、どちらの国からも不満が出たような結果、つまり痛み分けに終わり、混乱と不満が残った。米国での新型肺炎蔓延の深刻化により政権への不満が募れば、外に眼をそらすために戦いをしかけるというのは、過去にも類似の例が、米国はもとより世界各国である。
貿易摩擦において、米国と中国とどちらが勝つか、とか、どちらが有利か、という論評が、いたるところで目に付くが、貿易戦争は、完全な勝者は通常存在せず、どちらも傷つく。それだけでなく、他国も巻き添えを食う。

何れにしても、争いをしかけているのは米国であるが、中国は、歴史的に外圧を嫌うので、戦いを挑まれれば買うであろうし、今後の展開に関して綿密なシュミレーションを行い、多数の対応シナリオを書いているであろう。何れにしても、経済のグローバル化が進む現在では、世界中に影響を及ぼす結果になるのは自明であり、適切な落ち着きどころを両国が探っているのを願うばかりだ。

中国ビジネスコンサルタント水野真澄のブログ