複式簿記の理屈が分かっている人に聞くと、一笑に付される訳だけど、最初は疑問に思うもので、実際、僕も20数年前(新入社員の時)に質問して笑われた。
複式簿記の理屈は、運用サイド(Dr)と調達サイド(Cr)に分かれている。
資本金が、500払い込まれたという場合の記帳は、以下の通りになる。
現預金(Dr)500 | 資本金(Cr) 500
つまり、借入等ではなく、出資者が会社のために500の資金をねん出しましたよ、という事。
その後は、この現金を運用して、つまり、経費に使ったり、資産を買ったり等して、資産価値を増やしていくのが企業の活動。
だから、資産側(Dr)の500は、費用となったり(その場合、資産価値は減る)、固定資産になったり、売掛金に姿を変える。
その結果、資産価値が増えれば、利益がでる。
500の現金で物を買って、600で売れれば、(途中経過の仕訳を無視すると)、
現預金 600 | 資本金 500
剰余金 100
若しくは、
売掛金 600 | 資本金 500
剰余金 100
となるという仕組み。
そして、資本金を除いた100の部分(法定積立金等は取り合えず無視する)が、分配可能利益となるという事。
つまり、「元手より増えた分は、回収して良いですよ」という事。
ここまでは、簿記の入門編の、更に、導入部という感じの説明。
中国での会社設立に際して、「資本金幾らくらで設立可能でしょう」というご質問を良く受ける。
殆どの場合、「最低額で作りたいが、下限はいくらか」というご趣旨である。
中国の最低資本金は、外資企業の場合は、「会社法(3万元)」、「総投資と資本金の比率」、「業法(最近は、最低資本金額が定められている業種は少なくなっている)」の3つの要素の内、一番大きい金額を選択する必要がある。
総投資と資本金比率とは、会社の業績計画(資金計画)に基づき、総投資額(会社設立に要する資金総額)の三分の一~70%以上を資本金額とする事を定める比率。
規模が小さい外資企業(総投資額が、US$ 300万以内)は、資本金比率を70%以上にする必要がある。
外資企業の場合は、(業法に特段の定めがなければ)総投資と資本金比率が、実務上は優先されるため、実際には、会社法の基準である3万元で会社を設立する事はできない。
これは、どんな業績計画を作っても、認可を受けるためには、総投資と資本金比率から導かれる資本金額は3万元超となる為である。
では、いくらならいいか、という点は、認可を受けるための業績計画はどの様なものかに依る訳で、ここで行政指導が資本金設定の重要な要素となってくる。
まあ、会社設立総資金が、比較的合理的に算出できる製造業と違い、サービス業の場合は、総投資金額の合理的な算出が難しい(というか、不可能である)ため、認可機関が一定のガイドラインを持っており、これに合わせて資本金を設定せざるを得ない(定款上の総投資金額は、資本金比率で割り戻して設定する)ケースが多いからだ。
この様な状況を踏まえて、最低限のラインの算出を求められる訳であるが、たまに誤解があるのが、資本金として払い込んだ金額は、「使えないのではないか」、「清算時に回収できないのではないか」と思われている方が、ままいらっしゃる事。
中国においても、資本金活用の理屈は上記と同じ。
資本金は、会社運営の為に使用するために払い込むもので、当然、会社が自由に使える。
また、会社清算時の残余金は、会社清算手続完了後に、清算配当金として出資者に返金できる。
僕は、過去にいくつもの会社清算を手伝ったが、残余金を送金できずに困ったという経験はない。
そんな訳だから、あまりに資本金額を小さくして、日々の業務に支障が生じるようでは、却って自分の首を絞める事になる。
資本金で足りなければ、結局は、借入か仕入時のユーザンス等の方法で資金調達せねばならないからである。
一方、資本金が多くて困るというのは、中国では減資が難しく、資本金として払い込まれた金額は、(余剰資金が生じても)清算まで回収できない事である。
また、会社法に基づけば、資本金は、2年以内に払い込みが必要となるが、この払い込みが完了するまで、国内再投資、配当が認められないという問題もある(法律と実務に若干の違いがあるが)。
僕が上海法人を作るに当たり、資本金をUS$ 5万にしようかUS$ 10万にしようか迷い、結局US$ 10万にして、分割払い込みをする事にした。
その状況で、初年度から利益が出たが、残額を払い込むまで配当ができない。
香港側で余剰資金があったので、先に払って、後で配当を受ける事にしたのであるが、今から思えば、US$ 5万の資本金にして、必要がある時増資をした方が良かったのかもしれない。
増資認可が取得できないという事は、まず、あり得ないからだ。
資本金は、上記の点を総合的に勘案して、また、起業の個別事情も踏まえた上で、設定する事となる。
企業の資本金は、適正資金ニーズに応じて設定すべし、と言葉でいうのは容易だが、企業は生き物であり、資金ニーズも、刻一刻と変わっていく。
この見極めはなかなか難しい。
そのため、すぐに増資が認められる環境下にあれば、小さめの金額でスタートして、必要に応じて増資をするのが手堅い方法だ。
ただ、増資が難しいのであれば、最初からある程度の枠どりをせざるを得ない。
増資が難しい場合と言うのは・・・
これは、一定規模の企業で、増資に、必ず稟議手続が必要な場合。
また、会社・経営者によっては、実態を考慮せず、増資稟議を出す事自体が悪だ!と決めつけるような事例もある。
この様な考えが、逆に言えば、過大資本金設定の要因になったりもするのだが。