社会常識・会社の常識

職場の雰囲気は上司によって大きく変わるが、僕が新入社員で配属された課は、体育会系で、「体で憶えさせる」ポリシーだった。
部員の面前での罵詈雑言は日常茶飯事で、理不尽な事がたくさんあった。
ただ、大学時代に合気道をやっていた事で、理不尽さにはそれなりの慣れがあり、何とか乗り切れた。
結果として、新入社員の課が雰囲気的には一番強烈で、あとは、どこに配属されても良くなる一方。最初の一年を乗り切ったら、あとは楽だった。
若いうちに理不尽さを経験するのは、それはそれで重要なのかもしれない。
ただ、新入社員時代に、「いま知らないのは恥ずかしくない。怒鳴られて憶えろ。ただ、知らないままあと10年経ったら、恥どころか怖い事だ」とよく言われた。
確かに、それは言える。
憶えているのは配属二週間目に、外部に対して身内に丁寧語を使ったら、馬鹿野郎と一喝され、瞬時に体に刻み込んだ。
あの時、一喝されていなかったら、30代になっても顧客に対して、「田中部長(自分の上司)はもうすぐ戻られます」とか平気でいっていたかもしれない。
そう言われた相手は、十中八九、心の中で「いらっ」としている筈だが、口には出せず、日本語もろくに理解できないやつ、という人物評価だけを残してしまう。
更に、それを指摘されて、(そんな事は重要じゃないとか)開き直ったら最低だ。
それを考えると、新入社員時代の組織に感謝する事は多い。
厳しいけれど、部員間の仲間意識や人情はあったし、教育する姿勢はしっかりと有った。今では懐かしい思い出だ。

大企業中小企業がは良いかというのは一概に言えないが、少なくとも大企業は人数が多いだけに、指示・教育も行き届く。
たくさんの事を体で学べるのは確かであろう。

その一方で、その企業だけの文化が育ってしまう。
例えば、以前の職場では、社内レターに、田中部長と書くと怒られた。
新入社員の時に、上司から「お前は部長を呼び捨てにするのか」とつるし上げられている人間を見て、「名前の後に役職を付ければ敬称になると、学校では習った筈だがなあ」と割り切れない気持になった。ただ、田中部長殿と書かないと失礼になるのが社内文化であれば、それに合わさざるを得ない。
あくまでも正しい日本語の使用を標榜するのであれば、会社を辞めて学者を目指して頑張ればよいだけだ。
これは前の職場の一例で、無数の企業に無数の文化がある訳で、これらを全て把握するのは不可能だ。
結果、「丁寧すぎて変だと思われても、怒らせる事はない筈。ならば、極力丁寧に振舞おう」と考えるようになった。
あるべき論として、これが正しいかどうかはさておいて、まあ、社会人の発想(理論ではなく実践)という一例であろうか。