当時の僕は、まだ30代前半だったので、スキル(交渉術等)が重要であり、有能さの証ではないかと思っていた部分もあった。そのため、ちょっと意外に感じたが、その言葉の大切さが、徐々に理解できる様になった。
昨今、粉飾決算に絡んで、会計士が責任を問われる場面が多いが、企業が本気で隠そうとしたら、数週間、数か月の監査では、不正はなかなか見抜けない。
例えば、引当金の計上を避けるために、特定の偶発債務(保証債務等)を計上せず、関係書類を徹底的に隠したら、まずこの存在を見抜けまい。
経理責任者としては、会社の予算達成のプレッシャーがある中で、越えてはいけない一線を認識する意思と、相手の立場を考えて発言する誠意が、必要となる。
そして、その積み重ねが信用になっていく。
これは、ビジネスマンでも同じだし、当社の様なコンサルティング業でも同じだ。
できない事をできると言ったがために、適切な情報を開示していなかったがために、信用した相手が窮地に追い込まれる事がある。
そんな事があれば、その人間は二度と信用されない。
商社マンのイメージで、口八丁手八丁というのがあるが、僕自身はこの言葉は、薄っぺらい気がして好きではない。
話術が有るに越したことはないが、ビジネスは、信頼関係の上に成り立つものであり、口で作り上げるものではない。
結局、ビジネスのコツというのは、「嘘をつかない事。できない事をできると言わない事。相手の立場を考える事」であり、その細かい努力の積み重ねだと思う。
一つ一つは簡単な事だが、それを長い間続けていくのは、思った以上に難しい。