来料に関わるタックスヘイブン課税の考察

インターネット検索をしていたら、国税庁のHPの来料加工に関わるタックスヘイブン課税の論文(税務大学教授が書かれたもの)が目にとまった。
これは、発表された時に読み、「随分、僕の文章の引用があるなぁ」と思ったが、そのまま僕自身の考えを整理せずにいた。
僕の記述の引用も多く、それが事実認識の判断根拠となっている事から、(今更ながらの感はあるが)これを機会に、僕なりの考え方を書いてみようと思い立った。

1.珠江デルタ型来料加工に関するタックスヘイブン課税の妥当性
珠江デルタ型来料加工に関わるタックスヘイブン課税というのは、「珠江デルタ型来料加工業務(加工委託)を行う香港現法に対する、タックスヘイブン対策課税認定」である。

この妥当性が、色々と争われている訳だが、これには、「本来あるべき姿」と「現行法に基づく妥当性の判定」の双方に分けて考えるべきであると思う。

あるべき論から言えば、「香港法人に管理・運営実態があり、且つ、非関連者基準(卸売業の判定基準)を満たしているにも拘らず、所在地国基準(製造業の判定)を適用する事により、合算課税の対象とするのはおかしい」と思う。
なぜならば、珠江デルタ式来料加工は、ビジネス上の必然性から生じた取引であり、1980~90年代の中国本土の問題(進出リスクの存在、外貨管理上の問題)を克服する為に出来上がった制度であるからだ。
そこには日本での租税回避の意図はない。
(日本から直接ではなく)香港を経由して委託加工業務を行うのは、原材料・製品等の本来的な所有権が海外企業に留保されており、それに対する細かな管理が海外企業に対して求められる事、原材料の調達・製品の販売を外国(中国外)企業が管理する必然性より、物理的に、日本から対応する事ができない為である。
その後、中国のビジネス環境が改善され、独資形態での進出のハードル・リスクが軽減されてきた事は確かであるが、それが故に、珠江デルタ型来料加工を不適切(独資への転換が必然)と断定する事はできない筈であるし、その転換を促すのが日本の税務というのは筋道として疑問を感じる。

今でも、中小企業にとっては、珠江デルタ型来料加工は有用な制度であるし、独資への転換の為には、少なからぬ一次費用(転換コスト)や管理費用の増加を余儀なくされる。
日本企業の保護・育成の観点に立ては、長年続いた来料加工制度に、この様な形でブレーキをかける行為(経済合理性が認められる行為に対して、課税強化を行う行為)は、望ましくないと思う。


一方、現行法に基づけば、タックスヘイブン対策税制の対象となるケースが発生しても、やむを得ない場合がある。
今まで著書で紹介した様に、珠江デルタ型来料加工は多分に変則的な運用を伴うもので、加工廠の重要な意思決定を、香港企業が行っている様なケースが見受けられる。
よって、特定のケースでは、香港企業がタックスヘイブン課税の対象となり得る。
但し、(これは重要な点であるが)全ての珠江デルタ型来料加工がそう判断されるべきではなく、一定の要件を満たした場合に限定されるべきであろう。

つまり、あるべき論で捉えるか、現行法で捉えるかによって、判断の相違が生じ得るが、税務上の妥当性は、現行法を基に判断せざるを得ない。
上記の論文もその前提で書かれているが、これは、論文の性質上当然の事である。
やはり、現時点では、現行法に基づく解釈の明確化も避けては通れないステップだ。

ただ、本質的な対応は、本来あるべき姿に合わせた法整備を行う事である。
現行法の細かい解釈に固執しているだけでは、方向性を誤る(論文の問題ではなく、今後、どの様な対応を日本の税務が行うべきか、という問題)。
その認識をもった上で、以下、現行法に基づく判断を下記したい。

先ず、上記の、「香港企業がタックスヘイブン課税認定をされてもやむを得ない場合」とはどういう状況であろうか。

僕の考えではあるが、以下の3要素の全てを充足した場合であろう。
① 香港法人の活動(卸売流通)の、全て、若しくは大部分が、一定の条件を満たす来料加工(以下、特殊な来料加工)に関連している事。
② 来料加工廠が、法的・経済的な独立性を有しておらず、香港法人の事業所として位置付けられる事。
③ 組織(香港法人と事業所と見なされた来料加工廠)の主たる活動が、中国本土(来料加工廠側)で行われていると判断される事。

タックスヘイブン対策税制は、香港企業の実態を問うべきものである。
その判定にあたっては、香港企業の活動実態が先ず問われるべきである。
来料加工業務(それも、特殊な来料加工業務)以外の卸売流通行為に従事しており、それが、非関連者基準を満たしているにも拘らず、特殊な来料加工業務を行っているという事実のみで、その業種を「製造業」と断定するのはおかしい。
製造問屋(=卸売業)でなく、製造業と見なされるのは、香港企業の活動が、特殊な来料加工関連業務に特化している場合に限定されるべきである。
⇒ 特殊な来料活動(後述)の従事が、香港企業の中国本土側でのP/E認定に繋がるというのは、ロジックとしてもっともな部分はある。但し、逆に、香港企業側の業態判定に直結するというのは、理論の飛躍があると思う。
やはり、香港企業自体の活動が重要な判定要素となるべきであろう。


では、特殊な来料加工とはどの様なものであるか。
これは、来料加工廠が、法的・経済的な独立性を有しておらず、管理運営、意思決定、損益・リスクの負担が香港企業となっている場合と考える。
この様な場合(P/E認定に類似した、というかP/E認定の裏返しの考え方だが)、来料加工廠は、香港企業の事業所と認定され得る。

そして、最後は、(来料加工廠が事業所認定をされる事を前提に)当該組織、つまり、香港と加工廠を総合的に考えた場合の組織の、主たる活動地域が中国本土(加工廠側)にあると判断される場合。
つまり、特殊な来料加工とはいっても、その活動を分析すれば、生産、開発、原材料調達、製品販売、資金調達、その他の要素に分解できる。
それらの機能を総合した際に、主たる活動拠点が中国本土であると見なされる場合である。

この3要件の全てを満たした場合、「香港拠点に卸売業としての実態がなく」、「香港法人の業種は、(製造問屋ではなく)製造業と判断でき」、更に、「主たる活動を、香港外で行っている」と見なされるため、香港企業はタックスヘイブン対策税制の対象となり得るのではないかと思う。

ただ、繰り返すが、重要なポイントは、香港法人の活動実態であり、ここで独立した活動(特殊な来料加工以外の業務)を行っているにも拘らず、珠江デルタ型来料加工を行っているという事実だけで、製造業認定が行われるべきではない。
また、当然の事として、珠江デルタ型来料加工の条件は千差万別である、その実態は、判定において精査されるべきであろう。

では、各種の条件(特殊な来料加工と見なされる場合の条件)、更には、論文に対する意見、珠江型来料加工の実態に付いては、次回(若しくは、数日後)に検証してみたいと思う。