上海自由貿易試験区の規制緩和措置

上海の自由貿易試験区(以下、自貿区)が稼働を開始して1年ちょっとが経過した。 外資受け入れ規制緩和、外貨管理(特に、クロスボーダー人民元)規制緩和、税関優遇措置という施策が実施されており、これ自体は、意義深い内容を少なからず含んでいる。 ただ、自貿区の優遇措置として実施された施策の多くが、数か月後には他地域でも開始されているのが、個人的には不思議に思う点だ。

① 外資受け入れ規制緩和

外資企業の設立・登記内容変更の許可制から備案制への変更(ネガティブリスト以外)、年次検査制度の廃止、資本金規制の緩和が主要政策として挙げられていた。 但し、年次検査の廃止(年次報告制度への廃止)、資本金規制の緩和は、2014年3月1日より全国で実施される様になったため、自貿区固有の優遇ではなくなっている。 自貿区独自の規制緩和措置としては、非ネガティブリスト企業の設立等備案制変更された事で、これにより設立手続時のFS(フィージビリティスタディ)の提出免除等の手続簡素化が挙げられるが、インパクトは若干弱い。

② 金融

銀総部発[2014]22 号により、クロスボーダー人民元(以下、CB人民元)受領時の手続緩和、個人のCB人民元許可、CB人民元借入の規制緩和(異なる管理計数の採用)、双方向人民元プーリング・集中決済許可が認められている。 但し、2014年6月には、国務院弁公庁より、この大部分の措置を全国展開する指導意見が出されており、今後は、自貿区限定の優遇とは言えなくなる可能性が高い。 また、外貨の双方向プーリング・集中決済に関しては、多国籍企業認定を受けた大企業グループに限定されるが、匯発[2014]23 号により、2014年6月より全国的に認められている。

③ 対外投資

滬府発[2013]74号により、自貿区の企業が国外再投資をする際は、許可制ではなく備案性の適用を認めているが、商務部令2014年第3号により、2014年10月6日より全国でやはり備案制に変更される事となっている。

④ 関税優遇

2014年5~6月に、「通関の簡素化・効率化」、「集中納税」、「保税展示販売」等14種の税関優遇措置が実施されているが、2014年8月より長江デルタ地区の51か所の税関特殊監督管理区域でも適用を認め、9月より全国的に(税関特殊監督管理区域に限らず)適用を認める方針を税関総署が出している。

この様に、自貿区で発表された優遇措置が、数か月後は全国展開されている。 規制緩和自体は良い事であるが、自貿区に進出しようという企業のモチベーションを引き出すのであれば、せめて2~3年のラグを置いた方がよいのではないかという気が個人的にはする。現状のままでは、自貿区で新政策が打ち出されても、数か月待てば他地域(既に、会社設立している地域)でも享受できる様になる、という観測につながってしまうためである。 勿論、現段階で自貿区でしか実施されていない、ゲーム機製造販売、一部のインターネット業の外資規制緩和などの措置はあるのだが、投資家の視点でとらえると、若干、位置付けが中途半端になってしまっている様に思える。