NNAに3回連続で、多国籍企業の集中資金運用(双方向プーリング、集中決済、ネッティング)の原稿を書いた。
これは法律面からのとりまとめだが、実際はどうなのか(実務面の対応はどうなっているのか)という点を知りたかったので、浦東の環球金融センタービルを訪問し、メガバンクの担当者の方々と情報交換した(有り難うございました)。
集中資金運用は、外貨に付いては2014年6月1日から(匯発[2014]23号)、クロスボーダー人民元に付いては2014年11月1日から(銀発[2014]324号)という事で、始まって間が無い。
法規を見ると、外貨管理局(外貨の場合)、人民銀行(クロスボーダー人民元の場合)共に、許可制ではなく備案制となっており、資格要件さえ満たせば容易に開始できる様に読み取れる(外貨の場合は20営業日、人民元の場合は10営業日で備案完了)。ただ、実際には、政府機関はまだ試験措置として位置付けている事から、備案は困難の様である。
この制度は、資格要件が非常に厳しいので(外貨の場合、前年度の受け払い額が1億米ドル超。人民元の場合、前年度の国内企業の営業収入50億元以上等)、この制度を使用できるのはかなりの大手企業に限定される。その上で、備案(本来の意味は資格要件さえ満たせば審査不要で手続可能)に際して、煩雑な手続きや審査が実施されている状況の様だ。
資金集中運用に関する質問をお受けする際に、よく聞くのが、「ネッティングができるのであれば興味あり」というご意見であるが、ネッティングは可能だ。
ただ、ネッティングの前提となるのは、外貨管理の適切性と十分な書類管理である。つまり、事後審査にはなるが、個々の送金の元となった証憑は、原則として全件審査が行われる。その妥当性が保証できる事が、ネット送金(最低毎月1回の相殺処理が必要)の前提となる。
この意味で、送金回数の減少による手数料セーブ効果はあるし、資金管理の一元化による金利コストの削減効果はあるが、現時点でできない送金が、ネッティングをする事により認められる訳ではない。
更に、管理業務は、ネッティングを行わない場合に比べ、企業側も銀行側も、より煩雑なものになる。
この点を勘案した上で、有資格企業は、当該制度を活用するか否かを決定する必要があると言える。