最近、中国で話題になっている、短期滞在者(年間183日以内の滞在)に対する個人所得税課税は、以下のステップをたどって行われる。
=課税に至るまでのステップ=
(税務用語になじみの無い方は、この部分は読んでもピンとこないと思いますが、取りあえず一読下さい)。
?同一(海外)企業の人間が、継続的に中国の同一地域に出張。
↓
?看做しP/E認定
↓
?査定利益課税(看做し課税)方式で企業所得税の徴税
↓
?短期滞在者でも個人所得税課税
P/E(Permanent Establishment=恒久的施設)というのは、解説しだすとかなり厄介な概念で、これだけで数万字の原稿が書けるくらいであるが、本件(個人所得税課税との関係)を理解するだけなら「海外支店の様なもの」と考えればよい。
看做しP/E認定というのは、P/E(支店等)が無いにも拘らず、「P/Eがある場合と同様の活動が行われている」と判断される事で、これが、企業所得税の徴税に繋がる。
日中租税条約では、補助的活動に限定した拠点は、P/Eとは看做さないと規定しているので、本来的には「常駐代表所」はP/Eではない。
よって、企業所得税の課税対象にはならない。
但し、実際には多くの常駐代表所が看做し課税方式(主に経費課税方式)で課税されているのは、P/E認定の結果。
今回の出張者の派遣に伴うP/E認定というのは、もっと進んだ話で、「事務所登記も無いのにP/E認定してしまおう」というもの。
理論的には有りうる話ながら、中国では、ここまで進んだP/E認定は稀であった。
P/E認定されると、企業所得税の課税が開始されるが、看做しP/E認定されるようなケースでは、きちんとしたP/Eとしての経理・税務処理がされている訳が無い。
そもそも、組織が無かったり、収益獲得活動をしない筈の組織なのだから。
その為、実質所得に対する課税は現実的には困難で、ほぼ当たり前の様に看做し課税方式が採用される。
看做し課税という事は、「収入も費用も、一種の仮定(割り切り)に基づいて計算しよう」という事。
よって、どんな看做し課税方式を採用しているかに拘らず(経費課税方式であろうが、推定利益率課税方式であろうが)、人件費も一定のルール(割り切り)に基づき、P/Eが負担していると看做される。
「中国のP/Eが人件費を負担する=その部分は183日ルールの対象外」である事は、租税条約にも明記されている。
よって、P/Eが負担していると仮定された部分は、出張者の中国滞在日数に拘らず、中国で納税義務が発生するという理論展開。
常駐代表所の所長(代表登記された人間)が、滞在日数に拘らず、中国で個人所得税課税されているのもこの理屈。
以上が、P/E認定から個人所得税課税に繋がるステップである。
この様なステップをたどっていけば、本件、一定の理屈に基づいているのが分かる。
ただ、「P/E認定という一番泥臭い(解釈の相違が生じる)方法を使って、租税条約の183日ルールを外してしまうのはひどいなぁ」というのが、本件について、僕が前から持っている感想。
これに対抗するには、「P/Eを構成していない」という点を主張しなくてはいけないので、少々やっかい。
技術者派遣の場合等は、一応、日中租税条約の議定書に、「機械・設備の販売、若しくは賃貸に関わるコンサルティング役務のみを提供する場合は、工事P/E認定はしない」という規定があるので、この規定に該当する場合は、補助的コンサルティング役務しか提供していない、という理屈で抗弁する事になるのであろうか。
という事で、長々書きましたが、ここから先は、(個別案件に基づいて判断しなくてはならないので)有料コンサルティングの世界になってしまいそう。
という事で、本件はこの辺で・・・