商社のビジネスと独立起業

先日、亀一に、商社のビジネス形態に付いて解説していて、元上司から言われた事を思い出した。

世間では、「商社の人間が、会社の看板を自分の実力と勘違いして、独立したら商売が取れず失敗する事例が多い」などという事をよく言う。
まあ、商社に拘らず、大企業であれば、銀行であれ、メーカーであれ同じ事であろうが。

ただ、会社を辞めたら仕事が取れなくなる根源的な理由は何か、という点を、以前は深く考える事はなかった。
以前の上司が、それに付いての考察を聞かせてくれた事がある。

元上司曰く、
商社から購入するバイヤーが、何を商社に期待しているかを分析すると、資金ニーズであるケースが多い。
勿論、その他にもいろいろなニーズがある場合もあるが、資金ニーズというのが大きな要因を占めるのは確かだ。
つまり、原料を購入し、加工・販売した上で、現金収入があるまで、資金ニーズが生じる。
その間の資金が必要である為、与信形態で、その期間の資金を提供してくれる商社を起用する訳であり、その意味では、ユーザー側のニーズは銀行に対するものと近い。
ただ、銀行とは違って販売形態を取っているので、商社の営業マンが、自分の才覚だと錯覚するケースがある。
この様な場合、独立して資金供与ができないと、商売ができなくなってしまう、という事になる。
よって、この点履き違えないように、顧客のニーズがどこにあるかを理解し、対応も、リスク管理もしなければいけない。
という事だ。



商社のビジネスモデルは広範囲に渡るので、これが該当しないケースもあるだろうが、確かに言い得ており、企業の看板、という漠然とした言葉で表現される要因の根源が良くわかった。

つまるところは、企業の信用=資金という訳で、これが、企業内で取引をするのと個人の場合の大きな違いだ。
勿論、大企業にいるというのは、個人の身分証明みたいなものでもあるから、その意味での信用という点もあるであろうが、取引が資金のやり取りを伴わず、完全に、機能に対する受け払いに特化するのであれば、個人対個人(組織)の信頼関係で話は進んでいきやすい。

元上司から、その話を聞いたのは、丸紅の株価が50円台まで下がって借入が厳しくなっている時期であった。
その環境が、僕のコンサルティングビジネス開始時期と重なっていたので、「資金を使わず、ノウハウだけで勝負するビジネス形態に拘ろう」と考えた。

ビジネス開始当時は、丸紅自体も有利子負債削減に躍起になっていた時期なので、利益の金額は小さくても資金を使わないビジネスが評価されたが、その後、業績が急回復し、「資金は潤沢だ」というムードが出てくると、評価の基準も変わってくる。
ただ、ビジネス開始当初の刷り込みが強かったし、僕自身の性格もあって、開始当初のポリシーを意固地に守り続けた。

これは、僕の性格としか言えないが、資金を使う事が必然となる伝統的な商社ビジネスであればさておき、コンサルティング業で、資金をふんだんに使ったり、連結利益の取り込みを目的とした買収をするべきではない、という発想だ。
これは、元上司のコメントが胸に残っている部分もあるし、丸紅の管理部門人員であった時に、実務から学んだ部分もある。

それが、結果として、起業してからも困らずに済む要因にもなったので、瓢箪から駒が出た感じもするが、ともあれ、起業前後で、ビジネスには全く支障がないのは、有り難い事だと思う。