日本・香港租税条約のメリット

日本と香港の租税条約が発効したのは、2011年8月14日の事。
日本側の課税に付いては、2012年1月1日から適用されている。
租税条約というのは、二国(地域)間の課税範囲の取り決めをするものなので、どの様な場合に、どちらが課税するか、という線引きが明確になる事や、相手国(地域)の居住者に支払いを行う場合、優遇税率が適用されるというメリットが期待できる。
勿論、香港は、中国本土等に比べると、課税にうるさい場所ではないので、今までも、日本企業が、香港で税務問題が生じるケースはあまりなかった。ただ、課税の原則が明確になれば、企業の意思決定がやりやすくなる、というメリットがある。

1.個人所得税
日港租税条約のメリットとして、まず、挙げられるのは、個人所得税である。
香港では、課税年度に60日超香港に滞在すれば、納税義務が発生する。
これが、租税条約により、183日ルールが適用され、連続する12ヶ月に183日以内の滞在であれば、個人所得税の納税義務が免除される様になった。
つまり、香港に、60日超183日以内の期間で出張する日本人が、個人所得税の免除が受けられるようになった。

2.制限税率
配当(10%出資の子会社からの配当は5%)、利子(10%)、使用料(5%)の制限税率が設定された。
香港から日本にこれらの支払をする場合、配当・利子は源泉徴収不要、使用料は4.95%なので、特にメリットはない(上記は制限税率で、国内法の方が有利な場合は国内法が適用される。よって、デメリットもない)。
ただ、香港居住者が、日本から支払いを受ける場合はメリットがある。
日本企業でも、香港の現地法人が、日本企業と取引をするケースはあると思うので、この場合は、軽減税率の恩典が享受できる。

3.PE
PEにセンシティブになるのは、主に大企業であるが、租税条約締結により、PE(恒久的施設)に関する取り決めができたのは、重要な意義だ。
香港では、非居住者が香港内取引(在庫保管・引渡し)を行う事ができる。
特に、香港に輸出した貨物を、暫定的に日本企業名義で倉庫に保管して、これを香港企業に販売する様なオペレーションが検討される事例は多い。
これに際して、PE認定を受けないかという点が、いつも問題になる。
今までは、「香港の事業所得税課税では、香港源泉所得は課税対象になるので、認定リスクはあるが、認定事例は少なく、リスクは相対的に低い」という回答しかできなかった。
これが、「単純な保管引渡し、及び、その為の設備の使用であれば、租税条約に基づいて、PE認定を受けない」という回答ができるので、この意味では、香港内で意思決定が伴わないオペレーションであれば、対応策が組みやすくなったのである。

先日、真面目にビジネスをする企業・個人にとって、香港との租税条約締結は、歓迎すべき事である、と書いたのは、この様な背景を踏まえての事だ。

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