増値税・個人所得税ワンポイント解説(セミナー告知用)

6月に増値税&個人所得税セミナー(全3回)を開催するのですが(詳細はこちらをご参照下さい)、3か月連続の有料セミナーとなるので、お申し込みが重いという事を事務局より言われ、告知用に増値税・個人所得税のワンポイント解説を書いてみました。ご参照下さい。

増値税の見どころ・聞きどころ(その1)
■ 一般納税人・小規模納税人の損得比較と納税資格取得
一般納税人の標準税率は13%(財貨の増値税)・6%(役務の増値税)ですが、小規模納税人の税率は3%(不動産は5%)と低い税率が適用されます。ただ、財貨の増値税に関しては、確実に一般納税人の方が有利で、その理由は、必ず仕入増値税があるので、仕入控除・輸出還付が認められない小規模納税人は採算が悪化する、というものです。
一方、役務の増値税は、売上のみで仕入れがない場合もあり、この様な取引が主となる場合は、税率が低い小規模納税人が有利な場合もあり得ます。
こうした背景があり、特に、財貨の増値税に付いては、一般納税人資格は権利であり、取得のためには一定の義務を負うという考え方が主でした。その義務とは、一定の売上高、オフィス面積、従業員などで、増値税暫定条例施行(1994年)以降、この様な考えを基に、納税人資格制度が運用されてきました。この状況が段階的に修正され、最終的には、「増値税一般納税人登記管理弁法(国家税務総局令2017年第43号)」で、根本的に変わりました。
現在では、年間課税所得500万元という基準はありますが、それを下回っても資格取得は可能。逆に、小規模納税人を望む場合でも、課税売上がこの基準に達した場合、強制的に一般納税人に転換させられるという制度に変わりました。つまり、原則は一般納税人で、小規模納税人は例外的な対応という位置づけに変わっています。増値税の見どころ・聞きどころ(その2)
■ 免税適用の意義
免税、というと、有利なイメージが有りますが、増値税の世界では必ずしもそうではありません。免税は、売上増値税が課税されない(販売相手から徴収しなくてよい)ことを意味しますが、一方、免税取引に関する仕入増値税は、還付控除不可で、原価として計上する必要が有ります。よって、却って不利になる場合が少なくありません。
免税取引の代表的なものとして、来料加工があります。来料加工においては、原材料輸入・製品販売に際して増値税が免除されるだけでなく、外国企業から受領する加工賃に対しても増値税が免除されます。つまり、取引に関しては、増値税課税を受けないというメリットがあるのですが、仕入増値税は全て原価処理です。よって、中国内で非保税取引として原材料を調達する場合の仕入増値税、梱包材・研磨剤などを購入する際の増値税、物流費などに関する増値税などは、全て原価処理となるため、これらのコストが増えれば、採算は悪くなります。

増値税の見どころ・聞きどころ(その3)
■ 増値税輸出還付のポイント
増値税の輸出還付方式は、製造業と販売業では異なります。販売業は、仕入れた貨物をそのままの形で輸出しますので、仕入発票に還付率を乗じて輸出還付率を算定します。製造業は、輸出時には、調達段階(原材料など)と形状が変わっているため、販売会社と同じ方法は採用できず、「免税・控除・還付方式」という、一種の割きり方式で還付額を計算します。これは、還付しない金額を先に算定し、それ以外の仕入増値税を還付する方法です。そのステップと、月次の還付枠の算定方法は、セミナーにおいて、計算式の持つ意味とを踏まえて、分かりやすく解説します。
尚、増値税輸出還付請求権は、輸出通関した段階ではなく、貨物代金を回収した段階で確定します。よって、年度内に輸出還付を受けた取引に関する貨物代金入金証憑を、翌年4月末の増値税輸出還付の確定申告時に提示する必要が有り、これができない場合は、還付金を返金する必要が有るだけでなく、ブラックリスト企業に指定されるなど、懲罰的な対応を受ける場合が有ります。
因みに、輸出貨物代金を回収した場合でも、保税区企業からの代金回収である場合、クレーム代金を差し引かれた場合など、輸出還付が制限される場合がありますが、この点についても、セミナーで詳細解説します。

増値税の見どころ・聞きどころ(その4)
■ 加工貿易の税メリット
加工貿易には、来料加工・進料加工がありますが、双方、輸入原材料に対する関税が免除される点がメリットです。その上で、増値税に関しては、来料は免税(上記(2)参照下さい)。進料は、中国内で付いた付加価値に対して、一定の税コストを認識する事になります。
一定の税コストとは、上記(3)で記載した、「不還付税額(輸出還付しない金額)」であり、「(輸出FOB―免税輸入原材料)x(課税率―還付率)」という計算式で算定されます。ただ、2018年・2019年の増値税率の引き下げにより、財貨の増値税の標準課税率は13%、標準還付率も13%となりましたので、この場合(標準課税率・還付率が適用される財貨)であれば、不還付税額は無く、進料加工の税コストは無くなります。結果、免税措置が適用される(仕入増値税が原価となる)来料加工よりも、税コストは有利になります。

増値税の見どころ・聞きどころ(その5)
■ 発票基準と適切な会計処理の調整
中国では、増値税発票の受け渡しと会計処理を連動させる、発票主義と俗称される会計処理が広く採用されています。会計処理的には、(会計準則であれ、企業会計制度であれ)不適切なこの処理が、なぜ広く行われているかというと、この処理をしないと、所管税務機関の理解が得られないから(増値税計算と会計処理を一致させることを要求されるから)です。
一応、売上計上のタイミングの調整という意味では、「未開票収入」という項目を利用する方法があります。これは、増値税発票の受け渡しを伴わない売上計上に関する増値税申告書上の処理で、発票を起票するに際して、赤黒を入れて再計上しなおす方法です。この方法を採用すれば、売上のタイミングは調整できますが、幾つかの税務機関にヒアリングした結果では、限定的な使用(年間1~2回程度)で、納得できる理由が有る場合のみ認めるというもので、恒常的に採用できる処理方法ではありません。
通常の仕入・売上げでもこの通りですので、新会計準則を適用している企業が、「企業会計準則第14号(収益)」に基づく会計処理をする場合は、取引価格の修正(代理人の場合)、リスク要素の控除(ペナルティ・割引・返品など)、金利要素の考慮など、各種の修正が必要となり、増値税発票金額と売上金額が一致しなくなります。この場合、所管税務機関の許可を取得することは不可能に近い難易度となります。この様な場合は、会計監査報告書段階での調整とならざるを得ません。

個人所得税の見どころ・聞きどころ(その1)
■ 外国人に対する優遇措置(2023年末まで)と廃止後の対処法

外国籍社員に対する優遇措置を規定した国税発[1997]54号は、現時点では全文有効となっていますが、財税[2018]164号により、「住宅手当、子女教育費、語学研修費など」に関する優遇は2021年末に廃止し、特別付加控除と統合すると規定されています(その後、財政部・税務総局2021年第42号により2023年末まで延長)。
2019年の個人所得税法改定時に、筆者(講演者)は、延長の可能性が高い(2021年末の打ち切り前に、何らかの通達が公布されるであろう)と、著書(中国個人所得税の制度と実務の実務Q&Aなど)、その他の連載原稿に記載していました。ただ、今回(2023年末の)期限が再延長されるかどうかについては、確率は五分五分という感触を持っており、先が読めない状況です。
2019~2021年と現在の環境の違いは、国務院などより、2023年の最優先課題は内需拡大であり、そのための重要施策として、中低所得層の可処分所得引き上げが打ち出されています。その手段の一つが所得再配分であり、現時点で相対的に高所得層である外国人駐在員の優遇を維持する必然性が、かつてよりも低くなっていると思われるためです。

国税発[1997]054号で認められている優遇措置(フリンジベネフィットに対する免税措置)は、現物支給もしくは実費精算方式で取得する住宅手当、食費手当、引越費用、クリーニング費用、合理的な国内外出張手当、帰省費用(年2回以内)、語学訓練費用(本人のみ)、子女教育費などです。この中で一番影響が大きいのは家賃補助で、特別付加控除に統合されるとかなり不利な状況となります。その状況下、対応策の一つと考えられるのは、福利費としての計上で、給与(現在では、給与として処理した上で税務機関に免税備案をしている)ではなく、福利費として計上する方法です。これにより、企業所得税法上の損金算入制限(給与総額の14%以内が損金算入枠)は受けるものの、個人所得税課税の対象からは除外できますが、この方法(不動産契約の結び方、税務機関への届け出など)はセミナーで詳細解説します。尚、家賃以外には、影響が大きいのは子女教育費ですが、この点は現時点でも地域によって対処方法が大きく異なります。これは、外国人学校が教育機関認定を受けていないケースが多いことによる税務対応の違いによるものです。
そのほかは、出張手当に対する影響も考えられます。出張手当は、外国人が受領する場合は、国税発[1997]054号により個人所得税課税が免除されていますが、中国人社員はこの様な税務通達がないため、課税対象となるケースが見受けられます。
財税[2018]164号には、「住宅手当、子女教育費、語学研修費など」の優遇は、2021年末に廃止(その後、2023年まで延長)と規定されているのみで、54号通知自体の廃止は規定していません。よって出張手当など、上記以外の内容については、そのまま継続するか否か(54号通達が、部分失効の状況で継続するかどうか)にもよりますので、今後の動向が注目されます。

個人所得税の見どころ・聞きどころ(その2)
■ 確定申告の位置づけの違いと外国税額控除
2019年の個人所得税法改定により、確定申告の意義が大きく変わりました。以前は、計算間違いや申告漏れの修正という意味合いでしたが、それに加えて過大納付時の還付申請ができる点が明確に規定されました。これは、特別付加控除(特に高額医療支出)制度開始による事後申請や、税額計算が月次から年度になったことにより過大納付額の調整が可能となったことなどによるものです。ちなみに、外国税額控除制度も、個人所得税法改定により実質的に可能となりました(法律上は以前から認められていましたが、実際に申請が受理されるようになったのは個人所得税法改定後です)。ただ、複数の税務機関にヒアリングした結果では、外国人は外国税額控除は受けられません。この理由は、現段階では外国人は国内源泉所得課税であり(2019年1月1日以降、連続183日滞在が6年未満の場合は、国外源泉所得は課税免除)、理論上は二重課税が生じていないためというものです。

個人所得税の見どころ・聞きどころ(その3)
■ 国内外兼務が生じる場合の外国人に対する課税
外国人が中国内外で兼務している場合は、まず租税条約を適用するか(日本人の場合は、暦年183日以内の中国滞在で、中国負担給与が無ければ課税なし)、国内法を適用するかを納税者自身が決定します。
国内法を適用する場合は、根拠は「非居住者個人及び住所のない居住者個人の関連個人所得税政策に関する公告(財政部 税務総局公告2019年第35号)」となりますが、「滞在日数、勤務日数、給与負担割合」に基づいて、中国内での税額を算定します。
35号には、以下3種類の公式が規定されています。
● 公式一(年度内滞在日数90日以内の一般職員に適用)
当月課税対象給与=当月給与総額x(当月国内支払い給与÷当月国内外給与合計額)x(当月国内勤務日数÷当月日数)

● 公式二(年度内の中国滞在日数90日超~183日未満の一般職員に適用)
当月課税対象給与=当月給与総額x(当月国内勤務日数÷当月日数)

● 公式三(年度内の中国滞在日数90日超~183日未満の高級管理職、及び、183日以上の一般職員・高級管理職に適用)
当月課税対象給与=当月給与総額x{1-(当月国外支払い給与÷当月国内外給与総額)x(当月国外勤務日数÷当月日数)}

計算方法詳細は、セミナーで解説します。

個人所得税の見どころ・聞きどころ(その4)
■ 退職金に対する課税
日中租税条約には、退職金は居住地国が課税権を有すると規定しています。よって、中国駐在中に退職した場合、(日本ではなく)中国が課税権を持ちますので、退職前に、一旦帰国辞令を出して帰国した上で、退職金を支給するケースが多いです。但し、中国駐在期間中に退職となるケースも有りますが、その場合の課税はどうなるのでしょうか。
中国の法律(労働契約法)に基づいて支払われる経済補償金に対しては、「個人と雇用単位の労働関係解除に伴い取得する一次性の補償金収入に関する所得税免除問題に関する通知(財税[2001]157号)」・「個人所得税法の改定後の優遇措置対応問題に関する通知(財税[2018]164号)」により、当該地域の前年度平均給与の3倍までは個人所得税が免除されます。但し、日本で支給される退職金は、中国の法律に基づく支給ではないため免税規定は無く、給与に準じて課税されることとなります。ただ、退職金は全ての勤続年数を対象として支給されるため、「中国国内源泉所得課税対象外国人であれば」、中国外での勤務対応分を除外する事ができます。つまり、勤続年数が35年であり、その内中国滞在年数が5年であれば、支給額に5÷35を乗じた部分を中国での課税対象とする事ができます。

個人所得税の見どころ・聞きどころ(その5)
■ 日本採用(日本勤務)中国公民の課税・対中出張
個人所得税法・第1条には、「中国公民(中国内に住所が有る個人)は、中国内及び国外から取得した所得は、本法の定めに従って個人所得税を納付しなければならない」と規定されているため、税務機関は、中国公民は中国での居住日数に拘わらず、全世界所得に対して個人所得税を納付する必要があるという意見を持っています。
という事は、中国外(例えば、日本)で勤務する中国公民(納税年度中に中国に居住しない中国公民)も、中国で納税が必要という事になります(租税条約解釈上は正しくないと筆者は考えます)が、実際に申告しているケースは少ないようで、実務上の問題が生じていないものと推測されます。
ただ、日本採用(日本居住)の中国公民が、中国に長期出張をし、滞在期間が183日を超過したことで個人所得税を納付する場合、納税者側と税務機関の主張が異なる懸念が有ります。これは、本来的には、日本居住の中国公民は、日本居住者の立場で租税条約が享受できるので、中国勤務日数に対応する納税だけで良いはずですが、上記の理由で、中国の税務機関が、中国公民である事を理由として、全所得(全期間)に対する納税を要求する可能性が高いためです。
183日を超えない場合は、租税条約に基づいて納税しなければよいのですが(183日ルール適用は、特に税務機関での届出は不要で、納税者の自主判断です)、183日を超過し、税務機関で申告納税しようとした場合、上記の通り主張が食い違う可能性が有りますので、税務リスク回避の観点では、日本居住中国人の中国長期出張が避けた方が安全です。
この様な場合、中国に受け入れ機関が有るのであれば、一旦中国出向という扱いにすることで、この様な問題が回避できます。

 

※より詳しいセミナープログラムは下方をご参照ください。

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