来料タックスヘイブン考察2

昨日に引き続き、珠江デルタ型来料加工に対するタックスヘイブン税制適用の関しての考察。

2.香港現法の業態が製造業だと認定されるステップ
珠江デルタ型来料加工に関与する香港現法を、タックスヘイブン対策税制の対象(=実体が無い)だとする根拠は、その業種を、「卸売業ではなく製造業である」と断定する事から始まっている。
その前提で、香港で「物理的な拠点を有し」、「管理・運営を行っており」、「卸売流通活動に従事している事実があっても」、香港に工場が無い事を理由として、実体を否定し、タックスヘイブン税制の対象とするものである。

もし、香港現法の業種を販売業だとすると、「実態基準」・「管理支配基準」を満たした上で(つまり、香港で固定的施設を有し、管理が行われているという条件を満たした上で)、販売、若しくは、仕入の50%超が非関連者との取引であれば、タックスヘイブン税制の適用除外となる。

では、何故、外見的には卸売流通を行っている法人が、製造業であると判断されるのであろうか。
国税庁のHPの論文(以下、論文)には、香港現法が来料加工廠の意思決定権を有し、製造管理に責任を持ち、更に、製造損益責任が香港法人に帰属している場合に、その業種は製造業だと見なされると分析している。
つまり、
① 来料加工廠から香港法人に対する経営権移譲契約があれば、香港現法が来料加工廠を管理支配している事になる為、香港法人の業種は製造業と判断する。
   ↓
② 経営権移譲契約が無い場合でも、香港現法が来料加工廠の製造管理に責任を持ち、製造損益責任が香港法人に帰属していれば、香港法人の業種は製造業と判断する。
   ↓
①・②の何れにも該当しなければ、香港法人は卸売業と判断する。
というステップが論文に示されている。

前回からの繰り返しになるが、タックスヘイブン税制が、香港法人の実態を問うものである以上、それ以前に、先ず問われるべきものは、香港現法の活動であるべきだ。
よって、香港法人の活動が多様であり(来料にも進料にも、その他の卸売行為にも従事している)、且つ、非関連者基準を満たす場合は、上記①、②の何れかに該当した事のみを理由に、香港法人の業種を製造業と断定するのは不適切である。
ただし、香港現法の活動が、特定の来料加工に特化している場合に限定すれば、上記の論点には賛同できる。
あとは、その判断根拠の妥当性の問題である。


3.珠江デルタ型来料加工の実態と実態の検証
検証を始める前に、珠江デルタ型来料加工契約の実態に付いて補足をしておきたい。

弊著(中国華南香港進出マニュアル:JETRO、中国加工貿易マニュアル:NNA、新・初めての中国ビジネス:NNA)で、珠江デルタ型来料加工に就いて解説し、その典型的な例として、補充契約の存在を紹介した。
補充契約は、商務主管部門に登録される本契約(来料加工契約)の条件修正を目的に結ばれるものである。
ただし、補充契約の内容は千差万別であり、それ以上に、補充契約が結ばれないケースも極めて多い事は強調したい。

論文では、補充契約が結ばれ、香港企業が来料加工廠を支配する形態が珠江デルタ型来料加工(広東省型来料加工)と定義づけている。
その上で、それ以外の形態も考え得るため、その内容は個別に検討する必要があると記載している。
これは、適切な見解であり、この様な理解が、タックスヘイブン認定の際に正しく行われるべきである。

また、加工賃が、人頭割で設定される事が多いのは確かであるが、実際には、加工賃の設定方法も千差万別である。
人頭割、定額、出来高、複数の方法の併用等、契約により異なっている。
つまり、来料加工契約条件は、状況に応じて個別設定されるもので、定まった形がある訳ではない。
この点、日本側で十分理解されるべきである。

では、どの様な珠江デルタ型来料加工契約が、「香港企業に、経営権・製造損益責任が帰属すると言えるのか」、という点に付いて検証してみたい。

その前に確認しておきたいのは、この議論で必ず引き合いに出される、日本標準産業分類による製造問屋(=卸売業)の概念である。
これは、「自らは製造を行わないで、自己の所有する原材料を下請工場等に支給して製品を製造させ、これを自己の名称で販売する形態」と定義づけられている。

自己の所有する原材料を提供し、下請工場に生産させた製品を、「自己の名称で販売」する場合、当該問屋が、製造に関しても、一定のリスクと責任を負担する事が、常識的に想定され得る。
これは、自己の名称で販売するに際して、製造に関する管理責任や、リスクの負担を一切負わないという事は、常識的に考えにくいからである。
問題は、この様な行為を行うに当たり、製造問屋(香港現法)が負う責任とリスクが、来料加工廠の法的、経済的な独立性の否定につながるか否かであろう。

論文では、香港子会社は出来高に関係なく工員一人当たりで算定した加工賃及び工場賃借料を支払うことにより最終製品を受け取ることになっており、中国工場に発生した損失を中国法人が負担する取り決めもないため、中国工場における製造に係る損益(製造結果損益)は香港子会社に帰属している」と判断している。

また、「香港子会社は、借り受けた工場、提供を受けた工員及びその他一切の生産要素を投入し、また、中国工場における人事管理や生産管理を行い、そして、製造結果損益を享受又は負担しているといえる。この事実を日本標準産業分類に当てはめると、香港子会社は中国工場という事業所で行われる新製品の製造という経済活動の経営主体となることから、その事業は製造業に該当することとなる」と判断している。

ただ、無償提供設備の提供と、工員数当たりの加工賃設定が来料加工廠の経済的独立性を否定する事に繋がるであろうか。
前述の通り、製造問屋の概念は、「自己の所有する原材料を下請工場等に支給して製品を製造させ、これを自己の名称で販売する形態」である。
自己の名称で販売し、原材料も支給する形で他社に製造させるのであれば、また、逆に見れば、下請け業者がその条件を受けるのであれば、その条件として、下請け業者の一定の保護が織り込まれる事は、経済合理性の中で想定され得る。
その反面、下請け業者の利益は薄くなるのは、リスクと利益の関係から当然であろう。
原材料の提供と、設備(無償提供設備)の提供は、その一環として行われるものである。
また、人頭割加工賃の設定は、(工場の主要コストが人件費である事から)下請け業者が一番採算を取りやすく、且つ、委託者から見れば、下請け業者の利益を薄くするのに適した方法だからである。

香港現法が製造損益責任を負っていると判定する為には、香港現法が、来料加工廠で発生した損失の補てん義務、余剰利益の回収権を有しているべきであるが、この様な義務と権利を、香港現法は通常有していない。
論文要約には、「中国工場に発生した損失を中国法人が負担する取り決めもないため、中国工場における製造に係る損益(製造結果損益)は香港子会社に帰属している」と記載しているが、これは逆であろう。
契約上、別段の取りきめが無ければ、来料加工廠で発生した損失は、来料加工廠自身が負担するのが通常であり、これを香港現法が負担する場合に、初めて契約にその内容が織り込まれるものだ。
また、実際に、香港法人が、来料加工廠で発生した損失(災害、想定外の損失・支出)を補填する方法も、余剰利益を回収する方法もない。

つまり、来料加工廠側で損失が発生した場合に、それを補填する事は、香港の税務上問題が生じるし、また、(悪習ではあるが)香港法人から来料加工廠の窓口となっている貿易会社の口座に振り込まれた外貨は、自動的に2~3割が換金手数料として徴収されてしまう。
2~3割の割り増し負担を覚悟してまで、損失補てんを行う判断は、通常起こり得ない。
逆に、来料加工廠に余剰利益が発生したとしても、香港現法に還元する方法はない(対外送金は不可能である)。
この様に、人頭割の加工賃であっても、この様な独立性に基づいて(リスクとリターンの相関関係の中で)設定が行われているものであり、これを調整する方法は、香港現法側にも来料加工廠側にもない。


人頭割の加工賃設定であれば、飽くまでも、人員の増減を理由としてしか、加工賃を調整するすべはないのである。
これは、来料加工廠と香港現法の間に、経済的独立性が存在している事を意味する。
これが否定されるのは、損失補てん、損益調整の条項が、契約上折り込まれた場合、若しくは、その事実が立証される場合に限定すべきであろう。

また、法的独立性に付いてはどうであろうか。
例えば、香港現法からの出向者が来料加工の管理運営を行っている事や、それらの出向者の給与負担を香港法人が行っている事が、来料加工廠の法的独立性を損なうとの意見があるが、この事実だけでは、法的独立性の否定には直結しない。
日本法人が、海外の現地法人に出向者を派遣し、その様な出向者が当該現法の管理運営を行っている事実のみでは、現法が日本法人の従属的代理人に該当しないのと同様の理由である。
法的独立性が否定されるのは、(上記の例でいえば)日本法人が、現法の管理・経営権限を、直接的に掌握している事が証明される場合である。

珠江デルタ型来料加工に話を戻せば、香港法人の人員が、来料加工廠に出向せず、(出張形態で)直接管理運営を行っている場合、若しくは、補充契約等に、経営権の委譲が織り込まれている時であろう。
つまり、加工廠での出向者の立場ではなく、香港現法の社員の立場で、来料加工廠の運営権を行使している場合が、法的独立性の否定に必要な要件と言えよう。

尚、来料加工廠で勤務する社員の給与の一部を負担している事のみでは、当該社員の立場が香港現法に留保されているとは言い切れない。
資本関係のない取引先に社員を出向させるに当たり、人件費を派遣元が負担する事は、経済活動の中であり得る行為である。
勿論、経済合理性(人件費を負担し続けてまで派遣する事の合理性)と、派遣元で人件費を負担する際の損金性は、合理的に判断されるべきであるが、それは、派遣される社員の立場の問題とは切り離して考えるべきだ。

4.結論
珠江デルタ型来料加工が、特殊な運営形態を伴うものは事実である。
ただし、これが、香港法人のタックスヘイブン対象認定に直結するものではない。

タックスヘイブン税制の対象が香港法人である以上、まず、検討しなくてはいけないのが、香港法人の活動と機能である。
独立した卸売流通活動を行っている香港法人を、珠江デルタ型来料加工を実施しているという理由のみで、業種判定に影響を与え、所在地基準で実態を否定するのは適切ではない。

また、珠江デルタ型来料加工の形態は千差万別であり、個々の事例に合わせて条件判断をする事が極めて重要であるので、この作業を怠るべきではない。
補充契約の存在や、加工賃の設定方法は、加工廠によって異なる。
また、無償提供設備の供与、人頭割加工費設定、香港側での人件費負担や出向者派遣の事実のみでは、来料加工廠の経済的・法的独立性の否定には直結しない。
経済的独立性を否定する為には、損益調整の事実を立証すべきであるし、法的独立性否定の為には、香港現法が来料加工廠を直接的に管理・運営している事を立証する必要がある。

この様なステップを踏んだ上で、香港法人の実体が否定される場合に、初めてタックスヘイブン認定は行なわれるべ

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