2000年代早々、つまり、僕がコンサルティングを始めた時は、中国進出ラッシュの真っ盛りであった。その時の議論は、リスクを冒して海外に出るべきかどうか、であり、「海外に出る=チャンスとリスク」、「日本だけに留まる=安定」という発想だった。
それが、2011年の日本の大震災でサプライチェーンが乱れ、海外に出ない事もリスクである(天災などで、供給ができなくなるリスクがある)という事実を突きつけられた。
そして、2012年の中国での反日運動で、中国プラスワンが叫ばれ始めた。
その後、タイの軍事クーデター、バングラの日本人殺害、インドネシア・マレーシアのテロなどが有り、中国プラスαという話になってきた。つまり、ASEANも不確実性が大きいので、複数個所を構えてリスク分散が必要という趣旨だ。
そして、追い打ちをかける様に、2018年からの米中貿易摩擦が激化し、企業は製造・販売モデルの再構築の検討が必要となっている。この様に、世の中は、ここ10年程度で、どんどん企業に経営コストの増加を強いるようになっている。
米国に売りにくいのであれば、中国を離れてASEANに移転すればいいという話をする方もいるが、これは、経済を知らない発言だ。
日本の貿易相手国(財務省貿易統計)は、2019年:中国1位(21.3%)・米国2位(15.4%)、2018年:中国1位(21.4%)・米国2位(14.9%)と、3位以下を大きく引き離しており、とても無視できる状況ではない(輸出の場合は、2019年の1位は米国、2018年の1位は中国)。
それに連動する話でもあるが、IT(電子部材・半導体)に付いては、中国を中心にした大きなサプライチェーンが構築されており、全世界における中国の生産割合は、スマホ65%、複写機75%、ノートPC・タブレット86%と圧倒的な占有率。サプライチェーンを徐々にシフトしていく事は有り得るが、数百・数千の部品の生産・供給網をシフトするのは、長い時間と巨大なコストを必要とする。
市場としての位置付けでは、中国の個人消費は世界の10%を占めており、まだまだ上がるだろうから、米国の市場を無視できないように、中国の市場も無視できない。
つまり、米国と中国で断絶が起きれば、米国向け販売の製造拠点と、中国向け販売の製造拠点で、個別の体制とする必要が生じ、拠点の構築・維持コストの増大から、企業経営が圧迫される。それが、いまの世界で起きている事だ。
また、僕個人にとっての厳しい点もある。僕の仕事は、他の専門家と同様、他人より知っている事・ノウハウがある事が大前提となる。
中国は、面積・人口が巨大であるし、日本企業の進出は成熟している。上海、広州など数か所に拠点を構えれば、数百社のクライアントの方にサービスが提供できるので、効率的だ。ただ、ASEANは、パイが小さいうえに、国が変われば言語も、法律も、習慣も違う。
僕やいまの部下がそのままASEANで対応する訳にはいかず、多国展開をすれば、各国に、オフィスを借り、一定水準を満たす人材を雇用する必要が生じる。
結果、利ザヤが極めて低くなり、利益を出すのも一苦労で、店舗展開すればするほど苦しくなるのは自明の理。ベトナム(2016年営業開始・2018年黒字化)の次のASEAN拠点ができないのは、こうした理由だ。
その為、次のターゲットを米国に定めたのだが、これは、コンサルティングというよりは、情報収集・情報交換という位置付けとなる。
それはともあれ、自分の身に置き換えてみるだけで、日本企業のみならず、いまの企業が置かれている厳しい環境がよく分かるであろう。
生きにくい世の中になってきているが、ともあれ、変化に対応できる企業のみが生き残れるわけなので、頭を絞らなければならない。今回の新型肺炎の実家ごもりは辛かったが、それなりに、色々と考える事ができたのは収穫だった。そう、後で言えるように、頑張ろう。