中国・アセアンのビジネス選択

前回の計数を見て考えた事。その1.

最近は、幾分おさまった感があるが、昨年9月以降の報道を見ていると、理論性を欠いた論調が少なからずみられた。
これは、昨年9月の中国の反日活動の反動という面が多分にあり、心情的には理解できるが、海外拠点の構築・ビジネス展開は、企業の命運をかけた選択。
企業としては、合理的な分析と判断に基づくべきである。

企業の選択としては、海外進出地の選定に際して、海外で何をやるのかを明確にすべきである。ごく当たり前の話だが、この点からして、あやふやなケースがある。
つまり、その国に対して売るのか(その国の市場をターゲット)、その国で作るのか(製造目的)、その双方を行うのかの何れを目的とするかで、候補地も違うし、進出形態も変わってくる。

① 市場としての中国
その国の市場を目的とするのであれば、購買力がポイントとなり、経済規模が重要になる。
上記名目GDPを見てみると、中国の大きさが改めて認識できる。
2012年には、既に日本の1.4倍。
タイの22.5倍、インドネシアの9.4倍、ベトナムの59.6倍、ミャンマーの154倍という規模である。
中国に拠点を作るかどうかはさておいて(海外拠点を作らずに、日本やその他の国から売っていく、という方法も有り得るので)、この数字を見ると、中国の市場としての存在感を再認識させられる。
これからは中国はやめてミャンマー(カンボジア)だ、という様な報道も見られたが、これは、「製造拠点」と「市場」の位置付けの混同と、20年前の中国のイメージで報道をしている(事実誤認)ものと思われる。
GDP規模で言えば、ミャンマーと同水準にあるのは、クロアチア・ウズベキスタン。
カンボジアと同水準にあるのはボツワナ・モザンビーク・セネガル。
GDPが1位である米国と中国には、まだ倍近い差があるが、この点の計数の不正確さを承知で言えば、市場を目的とした場合、中国を捨ててミャンマーかカンボジアを選ぶ、というのは、感覚的には、米国を捨ててボツワナ、セネガルに選択集中する、というニュアンスである。
これは、イメージを掴みやすくするための断定であり、いささか乱暴な発言であるのだが。
ただ、少なくとも(製造拠点ではなく)市場としてとらえるのであれば、極めて小規模の専門商社であれば、この選択はあり得るが(そこに特化しており、強みが発揮できる市場であるので、数名の社員を賄う収入が得られる、という規模感)、一定規模の企業にとっては、この様な選択はできなかろう。

② 製造拠点としての各地の位置付け
一方、製造拠点と位置付けた場合はどうであろうか。
2007年頃から、中国が輸出奨励から輸入奨励という言葉を使い出した記憶がある。
これは、中国の輸出依存度が極めて高かった事からその修正の意味と、国民に財を行き渡らせることの重要性が認識された事だ。
更には、経済成長に伴い、人件費も向上、労働者保護の傾向が顕著になってきた。
この為、コストの上昇を販売価格に転嫁しにくい加工貿易企業(輸出型企業)は、採算が苦しくなるケースが多く、特に付加価値が低い企業は、カンボジアなど、人件費の安い国に移転する事例が出てきた。
これは、やむを得ないトレンドである。
一方、モノづくりは、人件費、家賃だけでは語れない。
部材調達が出来なければ物が作れないし、それを効率的に輸送するインフラが無ければコストがかさむ。
部材調達の産業集積面では、日系現地法人数が一つの目安になる。
中国本土に現地法人を開設する日本企業は、約5千社であり、タイの3.4倍。ベトナムの11.4倍。日系企業に部材を提供している中国企業の存在を考えれば、部材調達の効率性は、中国が他国を大きく上回る。
タイ、インドネシア、マレーシアなど、ある意味、日本企業進出の歴史が有る国であれば、一定の産業集積が進められているが、ミャンマーを例にとると、日系の生産型企業は殆ど進出しておらず、また、日系企業に部材を調達できる現地企業の存在は極めて疑問である。
よって、現時点では、完全加工貿易モデル(部材を日本などから輸送し、加工後の製品を日本など再輸出する)以外は選択肢にならないと思う。
つまり、その工場1社で製造を完結できる事が進出の前提。
更に、(販売市場も調達市場も無い以上)調達・販売の為に必ず発生する多額の物流コストは、採算に織り込まねばならない。

尚、上記不動産データでは、ヤンゴン(ミャンマー)の家賃が、上海の倍以上となっているが、これは、外資誘致を始めた途上国にみられる供給不足に伴う特殊要因であろうし、オフィス物件であるが故であろう(常識的に、工場部件ならもっと安い筈)。

また、人件費では、ベトナムが思っていたより低くて目を引いた。
2012年の賃金水準(月次)は、US$145となっており、中国本土の半額弱だ。
僕の中では、中国の7掛けというイメージだったので、それを考慮すれば安い。
(タイが中国より若干高く、インドネシアが中国の7掛けというのは、だいたいイメージ通り)。
ただ、ベトナム・インドネシアの賃金上昇率が、17~17.5%と高いのが気になる(中国は9.4%)。
結局、現時点では安いと思っても、数年後にはすっかり変わっていた、というのは、発展途上の国では十分あり得る問題だし、人口が少ない国に、進出が集中すれば、人件費増に拍車をかける。
この点は、近い将来必ず起こる話として、意思決定時に織り込んでおかなければならない。
コスト増を販売価格に転嫁できない加工貿易モデル、特に、労働集約産業は、一定期間ごとに、インフラの悪い場所に移転せざるを得ない、という宿命を負っている(先進国の物価水準が上がらない限り)。
業態によっては、既に、カンボジアでも高い、と言い始めている場合もある。

何れにしても、コスト(調達・配送のための物流コストを考慮した上でのコスト)、効率性(調達・販売の迅速性とインフラ)を考慮した上で、製造拠点を選定していく必要がある。
これは、計数面の分析と実地調査で、把握できる筈だ。