海南島自由貿易港建設総体方案(全体計画)が、2020年6月1日に公布され、日本のTVを含め、各種のメディアで取り上げられている。
総体方案を読んでみたが、これは、久々に大掛かりな優遇措置が織り込まれており、今後、海南島をめぐる環境、特に、香港、ASEAN関係が、大きく変わるかもしれない。
因みに、全国18か所に設置された自由貿易試験区(第1号は、2013年の上海)に付いては、僕自身はあまり魅力を感じていないと前から言ってきた。理由は、「優遇税制がない」、「投資管理自由化措置の試験地域という位置付けだが、ここで導入した後、すぐに全国適用するので、それが却って、この地域に投資する魅力を削いでいる」、「保税区域と誤解している方が多いが、そうではない(保税区域はそのうちのごく一部)。保税政策は、従来の政策とほぼ同じ」というものだ。
一方、海南自由貿易港は、以下の様な優遇政策が打ち出されている。2008年の企業所得税法改定より、特定の地域である事を理由とした優遇措置は原則禁止されてきたので、久々の優遇措置。更に、税関管理、企業所得税・個人所得税、外貨管理にまたがる点は、かなり大掛かりと言える。
海南自由貿易港の優遇
1.税制
奨励分類企業の企業所得税率を15%に軽減し、優遇人材の個人所得税を最高15%(3%、10%、15%の三段階課税)とする。
優遇人材の15%税率は、広東省のグレーターベーエリア対象地域でも2019年度より開始されたが、海南島でも実施される。
2.全島保税地域化
このインパクトが大きい。
全島を保税地域(封鎖管理対象税関監督管理地域)にして、貨物貿易に関しては関税ゼロ政策を適用しようというものであり、対象貨物の税関手続も緩和される予定である。海南島の面積は、3.3万㎢であり、九州より若干小さい程度だが、その全てが保税区域になって、加工貿易、保税保管、スウィッチ貿易等の拠点として活用できるのはインパクトが大きい。
島内の企業が輸入する原材料、設備機械の輸入は輸入段階課税免除される。輸入原材料を使用して加工した製品を、他地域(島外の中国)に販売すれば、その段階で関税・増値税が徴収されるが、輸入原材料を使用した製品でも、奨励分類生産型企業が製造したものであり、島内で30%以上の付加価値がつく場合は、関税免除措置が受けられると規定している(増値税・消費税は税法に基づき課税)。
3.その他
外貨管理の自由化は、色々と謳われているが、外資企業にとって即効性がある規制緩和は、外債(対外借入)の総量枠撤廃程度か。
それ以外に付いては、国際状況をにらみながらの対応であろう。米国との摩擦や、香港の状況次第によっては、まずは、この地域で、一気に為替管理を自由化する可能性もあり得る。
趣旨はこちらを参照下さい
あとは、IT、現代サービス業の誘致が目的とされているので、規制緩和は有り得る(特に、規制の強いIT業でどういう規制緩和が実施されるか興味深い)。
また、2011年から実施されている、島内免税販売(国内旅行者に対する商品免税販売)も、一人当たりの免税額を年間累計10万元に引き上げる。
上記は主要な内容の例だが、全体的に、ここ暫く見られなかったほどの措置(特定地域に大きな優遇を与える事の不公平を、過去10年以上嫌ってきたため)が織り込まれている。
僕が、最初に海南島出張したのは1998年の海口で、その時の僕の印象は、兵どもが夢のあと、というもの。それが理由で、海南島に興味を持たなかったが、2008年に三亜に旅行した時、想像以上の発展に驚いた(10年前の海口とは大違い)。その時の感想を、ブログに以下の様に書いている。まあ、旅行の感想だが。
それから更に10年が経過し、2018年に海南島が自由貿易試験区として認可された。その時は、さほど興味はもたなかったが(理由は上記の通り)、今回は違って注目している。
香港にとって代わる存在とする政策という推測が多く、サウスチャイナモーニングポストなども、それを意識した論調の記事を書いている(まだ香港の比ではないというニュアンスの記事)。
想定の一つではあるだろうが、香港代替にするのであれば、金融・ITが大きく発展し、GDP規模で香港を既に抜かした深圳に設置する方が手っ取り早い気がする。
海南島は、立地的に見ても、ASEANとの結びつきの深化、(島として隔離されている事のメリットを生かして)外貨管理の大きな緩和の実施などの施策が取りやすい。この様な意味では、香港のようで香港ではない位置付けとして伸ばしていくのではないか。