香港(保税区を巡る動向)

今回の開業記念講演会での僕の講演テーマは、「組織変更」だったけど、土壇場で、外高橋保税区関係者が飛び入り参加を申し出てくれたので、後半部分は、Q&A形式で、保税区を巡る動向を解説することとした。
いま、保税区関係で刻一刻と状況が変わっており、注目を集めるのが、保税区の区外分公司関連事項。
関心が集まる点のポイントは、以下の通り。
? 内流通権を取得した保税区企業(外高橋保税区企業)はどの程度有るのか。
? 税区企業は、国内流通権を取得していなくても、区外分公司が開設できるのか。
? 区外分公司登記を認めているのは、浦東新区工商行政管理局・外高橋保税区管理委員会の通知だが、これを基に、浦西、更には、上海市以外でも分公司を開設できるのか。
? 区外分公司を開設した場合の課税関係はどうなるのか。

上記の点に関して、保税区関係者からの回答は以下の通りであった。
● 国内流通権の申請は450件。その内、認可を取得しているのが200社程度。
● 区外にコンサルティング性(非営業性)の分公司を開設した実績は、100社程度。
  浦西地域も実績あり。
● 上海市以外では、広州、天津等に、分公司を開設した外高橋保税区企業が有る。
上海市以外に付いては、地域による管理の違いがあるので、確たる事はいえないが、少ないながらもこの様な実績がある。
● 分公司を開設した場合、「コンサルティング性の分公司」であれば、従来の区外出張所(弁事処)と実質的に何ら変わりが無いので、課税関係も同様。つまり、保税区で一括納税。
但し、国内流通権を取得した上で、営業性の分公司を区外に開設するのであれば、個別に会計記帳し、納税を行う必要がでてくる。



外高橋保税区法人で、国内流通権を取得した企業が200社程度というのは、少ない様な気がするが、保税区企業の国内流通権取得(営業範囲の拡大)が認められたのは、昨年7月、つまり、1年前の事なので、それを考えれば、まずまずの実績と言えるのかもしれない。
申請の受理が、更に、250社程度有るという事は、あと数ヶ月で、国内流通権の取得が進むのであろう。

国内流通権を取得した外高橋保税区企業は、区外に営業性の分公司を開ける事となっているが、この様に区外営業性分公司を開いた場合、(交易市場ではなく)自社オフィスで増値税発票の起票ができるようになるのかに付いては、調整中であり、現時点では不可との事。
まあ、国内流通権を取得した保税区法人でも、会計・税務処理の煩雑さを嫌い、敢えて営業性ではなく、コンサルティング性の分公司を開設する例が多い様なので、現状、増値税発票の起票に関して(自社起票に付いて)は、それ程逼迫した問題とはならないのであろうか。

また、区外分公司の開設登記は意外に進んでいるようだ。
保税区関係者の言う100社というのは、登記手続が完了していないものも含んでいる様なので、実際には(登記完了しているのは)数十社という事であろう。
区外出張所が行う営業行為に付いては、まだ、正式な立ち入り検査は無いようであるが、年次検査の折に、(浦西地域で)問題指摘を受けたケースが何件か有る様で、これを踏まえて、(体裁を早急に整えるべく)分公司登記を進める動きが進んでいるようだ。
分公司登記をしたとしても、コンサルティング性の分公司の場合、営業行為が出来ない事には変わりが無いので、本質的な解決にはならない訳であるが、分公司登記をすれば、問題は若干弱まるという事なのであろう。



因みに、上海市(浦東)の場合、地方通達が公布され、保税区法人の区外分公司登記を認めているのでよいのであるが、その他の地域ではどうであろうか。
筆者の知る限りでは、他の地域は、この様な地方通達は出していない。
ただ、先週、広州保税区にヒアリングしたところ、広州市工商行政管理局経由、国家工商行政管理局に確認した所、上海と同じやり方をしてよいという回答であったとの事で、これを信じれば、上海の方法が全国に広まる形で収束していくのであろう。
但し、国家工商行政管理局の中でも、現時点では、方向が明確に決定していない(違う意見も有る)という話も聞いており、この点、真偽の程が定かでないが、もう少し、成り行きを見守る必要がありそうだ。

では、既に、保税区貿易会社を開設している場合、「保税区法人の営業範囲を追加して、国内流通権を取得する方法」と、「区外に販売会社を設立する方法」のどちらがよいかという点であるが、既に、字数も多くなってしまったので、これは、別途「中国ビジネス解説」に寄稿しよう。
これだけでは、あまりにひどいといわれそうなので、検討に当たってのポイントだけ記載すれば、以下の通りとなる。



1)外貨の問題は解消している様だ
保税区法人を活用する場合の最大の問題点は、「外貨換金制限」と言われていた。
つまり、保税区外貨管理規定は、保税区法人の外貨の取得(人民元から外貨への換金)を原則として認めていない(配当、その他一部の例外は除く)。
よって、中国から見た輸入+国内販売を主としたビジネスモデルの場合は、外貨バランスが取れなくなる事が問題であったが、保税区の中国銀行に確認した結果、国内流通権を取得した保税区企業に対しては、外貨換金を認めているとの事。

2)増値税輸出還付は取得できる
保税区法人は、増値税の輸出還付請求権が無かった。
これは、「輸出財貨税額還付(免税)管理弁法:国税発[1994]031号」に、輸出経営権を持つ企業のみが、増値税の輸出還付請求が可能と規定されている為。
但し、国内流通権を取得した保税区企業は、外貿流通経営者登録が可能である為、この、正規の手続を経た保税区企業は、輸出還付請求権が取得できる事となる。

3)会社登記地に営業実態が無いという点は、問題が残る。
また、増値税発票の自社発行が出来ないとすれば、この点も手間。

4)会社清算・新設の手間は省ける。
既存の保税区法人が不動産を保有している場合は、新設法人に移管すると、高額の税金が発生する。
また、多額の控除待ち増値税(仮払い増値税)を有している場合も、清算時期によっては、不測の損失が生じる危険性がある。

その他、色々な問題点が生じるので、それを相対比較しながら検討し、対応を決める必要があるという事である。