高くなっているし、それは今後も継続するが、現段階では、絶対的に見ればまだ安い、というのが僕自身の感想だ。
中国では、年々賃金の引上げが行われている。
これが、企業の収益力に影響を与えるのは当然であるが、そのインパクトは産業形態によって異なってくる。
製造業の場合、数百人、数千人の工員を抱えざるを得ず、人件費アップの影響は、絶対額として大きなインパクトを持つ。
特に、労働集約産業であれば、中国で発生する付加価値が低い為、次第に、人件費のアップを吸収する余地が無くなってくるのは摂理である。
しかし、製造業であっても付加価値が高い場合、若しくは、中国市場に対する販売であり、人件費の増加を価格に転嫁できる場合は、状況が変わってくる。
何れにしても、給与水準の引上げを中国政府は志向しているが、これは、産業構造の転換を企業内部から進める動きであろう。
つまり、労働集約⇒高付加価値、輸出重視⇒中国市場重視という産業構造の転換を、自ずと図らざるを得ないからである。
賃金が引き上げられていると言っても、現在の最低賃金(地域によって異なる)は、最高水準で1千元ちょっと。
中国沿海部で工員を雇う場合の人件費は(最低賃金以上の水準を設定するとして)、残業代、個人所得税、福利等を含めれば、2.5千~3千元程度となるのであろうか。
これでも3~4万円なので、日本と比較すれば確実に安い。
ただ、1万円/月/人の水準でしか採算が合わない状況であれば、既に、中国で製造を行う事はできなくなっている。
つまり、日本⇒中国と行きついた移転が、さらに人件費の安い地域に移らざるを得なくなる。
一方、サービス業(オフィス勤務)の場合は、求められる人材も変わってくる。
今の中国は、高い教育水準の人材が雇いやすい環境になっている。
現在、大都市で大学新卒を採用すれば、社会保険・個人所得等のコストを含めても、5万円/月/人程度の人件費で採用する事ができる。
日本の4分の1だ。
この価格で採用できる中国の新卒は、(例えば)日本語一級を持っており、すぐに通訳もこなすし、実務経験を除いた能力は高い。
これは、為替の歪み(人民元の過少評価)と物価水準の双方の要因があると思う。
但し、例えばタクシー料金や弁当代金の差(日本では500~700円のものが、中国では10元程度=公定レートで換算すると120円程度)は、為替の要因と品質の差の双方の要因がある。
但し、新卒学生を例に取れば、日中の新卒でこの様な品質差がなく、有るのは給与水準の差だ。その意味では、有利な条件で人材を雇用できる。
どこの国にも、素材として優秀な人材はいる。
但し、国際的な知識・感覚というのは、経済の発展に比例するものだ。
これは、教育環境の整備、海外の教材・情報入手の容易さ、国内の海外企業進出数(外国企業・外国人との接触可否)、海外への渡航経験等が影響を与えるものであり、一定の経済水準になると、その体得が、格段に容易になる。
例えば、国際会計基準や移転価格税制を学ぼうとしても、その材料が入手できない、インターネットアクセスができないという状況では、習得にも限界がある。
一方、この様な教材・情報が、自国語に訳された状態で豊富に入手できる環境であれば、情報自体を(たとえ英語でも)入手できない環境の人材と比べれば、決定的に有利なポジションになる。
米国は日本より早く、日本は中国より早くその環境になっていたが、現在、中国もその様な環境を整えている。
その意味で、今の中国は、コストとパフォーマンスのバランスが良い状況なのではないかと思うのである。
この理由から、設備投資が少なく、人材ノウハウの確保が主流になるサービス産業の場合、中国進出のメリット(日本より安価に優秀な人材を確保できるというメリット)はあると感じている。
これは、物価水準と為替のゆがみ、ソフトインフラの発達と価格への転嫁のラグの恩恵を享受できるからである。
そして、僕の会社自身が、その恩恵を十分に受けていると感じている。
中国は、沿海部と内陸部の格差があるため、物作り部分は、内陸部が吸収できる余地はあるが、沿海部に限定して言うと、世界の工場と言われた物作りの拠点から、ソフト産業への転換が、徐々に進みだしているのではないか。
これは産業構造の変化であり、ソフト産業にとっては有り難く、製造業にとっては歓迎できない環境の変化とは言えよう。
勿論、これは、日本もたどってきた産業構造の変化であるが。