P/Eって、何が怖いのか?

最近、何人から方から、「P/Eというのは中国の考え方か」と聞かれた。
メディアの方からもそんな質問をされた。

これは、全くの誤解で、却って、P/E議論が中国で交わされる時代が来るようになるとは、5年前までは僕自身思いもよらなかった。
P/E(Permanent Establishment)というのは、事業所得の課税権の判定に関する、国際課税の基本的な概念であるし、すこし前までは、米国、アジア(中国以外)でセンシティブなトピックスだった。
僕の最初の本(2001年執筆)では、P/Eだけで一項目を設けているが、それは、1990~1997年の、米国税務担当時の経験が大きい。
そして、そこには、「P/E認定も移転価格も過少資本も、非居住者に対する課税(海外への所得移転の規制)の考え方で、極論すればやり方の違いに過ぎない。そうであれば、判定が抽象的になりやすく、水掛け論に終わりがちなP/E認定よりも、中国は移転価格で攻めてくるのではないか。実際の取引をベースとして、利益率を調整する事で、多額の更正ができる訳だから」という趣旨の意見を書いた記憶がある。
それが、10年経過して、P/E認定も移転価格も過少資本も全部やりだしたのには驚いた。
やはり、中国は、会計・税務に関して言えば、完全に米国を追い掛けている。

僕は、P/Eの担当を長年続けたのであるが、大企業では、P/Eと言えば物事(案件)が止まる。
P/E認定されてどの様な問題(影響)が生じるか、という検討をする前に、P/E認定リスクを提起する人がいると、「ならやめよう」と条件反射してしまう傾向が強い。
僕は昔(P/E担当だった頃)、「社内をP/Eという幽霊が歩いている様だ」とよく言ったが、まさに、そんな感じがする。

ただ、考えてみれば、支店だってP/Eだ。
というか、支店は、一番分かりやすいP/Eであり、この様な機構を通じて海外ビジネスを行っている会社は多かろう。
ただ、P/Eに極端な拒否反応を示す人でも、支店の開設に抵抗感を持たないのは、考えてみれば不思議だ。

見なしP/E認定(継続的なプロジェクト提供、代理人P/E、その他)を企業が嫌うのは、
① その国に拠点も無いのに、(非居住者ながら)税務登記・申告を行う事に対する潜在的な拒否反応。
② みなし認定という、変化球(?)で攻めてきた税務局の、次の一手に対する恐怖。
③ 中国の場合は、個人所得税に対する派生(国税発[1994]148号の見なし規定により、見なしP/E認定を受けた場合は、関連出張者が183日ルールを使えなくなる)。
というものであろう。

そして、リスクの拡大。
「P/Eは所得を吸引する」という概念がある。
たとえ帰属主義(P/Eに帰属する所得のみを当該国での課税所得にするという考え方で、総合主義に対比される)を採用している場合でも、帰属していない事の証明は難しく、P/E認定されると、課税対象の範囲が限りなく拡大する危険性がある、という内容だ。

この様に、課税リスクが、どこまで大きくなるかが予測できない、というのが、P/E認定の一番の恐怖であり、分かりやすく言えば、「P/E認定というのは、それから何が起こるかよくわからないから怖い」という事だ。
この意味では、まさに幽霊の様なものだ。

ただ、所得吸引の理論はさておいて、現実問題として、P/E認定された途端、その国との取引(事業所得)が、全て課税されるというのは、常識としては考えにくい。

繰り返しになるが、支店や請負工事事務所はP/Eだし、駐在員事務所でも、中国において経費課税の対象になっているという事は、すなわちP/E認定されているという事だ。
この様な既存のP/Eがある場合は、その状況・税務局の対応が、判断の参考となる。
そして、租税条約で帰属主義が謳われているのであれば、判断根拠は、やはり帰属主義に基づいて行うのが筋であろうし、租税条約を判断根拠とすべきであろう。

中国で、これだけP/E議論が生じるとは思わなかったが、この様な状況になった以上は、実務と理論に基づいた、冷静な実務判断が必要となろう。

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